フィレンツェだより
2007年5月11日


 




ドゥオーモの堂内



§ドゥオーモ(サンタ・マリーア・デル・フィオーレ)

妻がイタリア語の勉強のために読んでいた新聞(フリーペーパー)で,5月12日から20日まで,文化週間(セッティマーナ・ディ・クルトゥーラ)というのがあるの知った.


 この間に様々の催しがあるらしい.観光案内所でその予定表が入手できると教えていただいたので,カヴール通りに足を運び,その後,まだ入っていないドゥオーモの中を拝観しようということになった.



 知らなかったのだが,ドゥオーモも現役の祈りの場だからだろうか,拝観料というのはなかった.しかも,週末のせいかどうかはわからないが,観光客が少なく,ゆったりとした気持ちで様々なものを見ることができた.

 天井はあくまで高く,ステンドグラスや彫像や絵画に飾られた堂内は,やはり感動的なものだった.

 係員の方に「写真を撮っても良いか」と聞いたら,良いと言うことなので,たくさん撮ったが,暗いこともあり私が撮ったものは今ひとつだった.次回また挑戦ということで,今日の写真は1枚を除いて全て妻の撮影である.

写真:
ドメニコ・ディ・ミケリーノ
「神曲を示すダンテ」


 是非一度実物を見てみたいと思っていたものに,このドメニコ・ディ・ミケリーノの「神曲を示すダンテ」(1465年)がある.

 これはすぐに見つけることができた.あとで購入した日本語版ガイドブックの拡大図で見ると,彼が開いてるページには「ネル・メッツォ・デル・カンミン・ディ・ノストラ・ヴィータ」(我らの人生の道半ばで)とあるので,「地獄篇」の冒頭のようだ.

 ダンテの時代にはまだなかったはずの,ドゥオーモのクーポラが描かれているが,この絵自体が,15世紀のものとはいえ,ダンテの死から144年後のものなので,やむを得ないのだろう.

 ステンドグラスは立派なものだと思ったが,下絵を書いた作者の一覧を見ると,ドナテッロ,カスターニョ,ギベルティと綺羅星の如くで,その中に,サンタ・マリーア・ノヴェッラ修道院「緑の回廊」ののフレスコ画や,ウフィッツィ美術館で見た「サン・ロマーノの戦い」の作者であるパオーロ・ウッチェッロの名前があった.

 下の写真の中程の大きな騎馬像はウッチェッロの作品で,主人公は「ジョヴァンニ・アクーティ」,イングランド出身の傭兵隊長ジョン・ホークウッドである.日本語で読める伝記もあるほどの有名人だが,私はフィレンツェ関係の本を読んで,簡単な事跡を知っている程度だ.

写真:
「ジョヴァンニ・アクーティ」
ウッチェッロ作


 その左にある同じくらいの大きさの絵はカスターニョ作「ニッコロ・ダ・トレンティーノ」の騎馬像だ.この人物に関しては私は全く知らなかったが,ウフィッツィのウッチェッロの作品の題材にもなった「サン・ロマーノの戦い」でフィレンツェ軍を勝利させた傭兵隊長とのことである.

 右側のステンドグラスの下の像は,チュッファーニ作「ダヴィデ王」(1434年)で,それを収めている大理石の小礼拝堂はアンマンナーティの作だそうである.ともかく,知らなかった絵画や彫像が多くて,フォローしきれない.何度も通って,一つ一つの作品を良く見てみたい.

 真ん中あたりにロープが張られていて,奥は入場できない.ロープのところからだと遠くてよく見えなかったが,奥の祭壇の両脇の扉の上にはルーカ・デ・ロッビア作の彩色陶板があるようだし,クーポラの天井画「最後の審判」はヴァザーリらの作で,ローマのシスティーナ礼拝堂のミケランジェロを思わせる.



クーポラの天井画「最後の審判」
(ヴァザーリ)



堂内の大理石の床



 地下にはブックショップがあり,絵葉書を2枚とガイドブックを買った.英語版,イタリア語版にくらべて情報量に遜色はないようなので,日本語版を購入した.

 地下にはドォーモ(花の聖母教会)の前身である「聖レパラータ教会」の遺構もある.ここは3ユーロの入場料がかかる.今日は予定外に立ち寄ったので,そちらは次回にまわした.

 ドゥオーモの外壁には様々な彫刻が施されているが,入り口のところには「聖レパラータ」の彫像があり,この聖女がフィレンツェにとって大事な聖人であることに変わりはないようなので,もう少し勉強して,その一環としてドゥオーモの地下も訪ねてみたい.



 ジョットの鐘楼の外壁にも,左下の写真のようにキリストを表す旗を持った羊の彫像があるが,堂内のステンドグラスの中で,私たちの印象に一番残ったのは,やはり旗を持った小さな羊のもの(右下の写真)であった.






 今まで,どんな時間に訪れても千変万化の素晴らしい様相を見せてくれたドゥオーモの外観には魅せられ続けてきた.今回,初めて堂内に入ったが,確かに私たち外国人がルネサンス文化の周辺知識として必ず知っているのような大傑作はないかも知れないが,まず大きさ,それから内部の彫像や絵画の多さ,そして質の高さに驚嘆の念を禁じえない.

 ドゥオーモはフィレンツェの象徴と言えるし,どんな紹介にも必ず出てくるので,ある意味で人を食傷させる要素があると思いがちだが,外から見ても中に入っても,どんな時でも感銘を与えてくれる.まだ10カ月以上の滞在予定期間も,日本に帰国後,観光でイタリアに来たときにも訪ね続ける場所になるだろう.


バレンボイムのインタビュー
 夕方,ピアニストで指揮者のダニエル・バレンボイムの公開インタビューがあると教えていただいたので,テアトロ・コムナーレの小ホールに向かった.何語を話すのかと思ったが,流暢なイタリア語で雄弁を振るった.もちろん私たちのイタリア語力では殆ど理解できなかったが,音楽と芸術,政治のことを語っていたようだ.「アンティセミティズモ・イン・ジェルマニーア」(ドイツにおける反ユダヤ主義)とかこの種の語句は良く聞き取れる.

 アルゼンチン生まれのイスラエル国籍で,パリ,シカゴ,ベルリンのオーケストラを率い,ユダヤ人でありながらワグナーを振って高い評価を得る壮大なスケールの人物が,100人にも満たない聴衆を前に熱く語る様は感動的であった.しかし,私たちとは違う文化の中にいる人だなあとつくづく思った.



 その前に少し時間があったので,劇場近くのオンニサンティ教会に2度目の訪問をした.例によってフラッシュを焚かなければ写真は許してもらえるので,今日は先日よりも光の条件が良いので,うまく取れるかと思ったが,私の撮った分にはやはり良いものがなかった.妻が堂内を撮った写真はよく映っていたので,下に掲載する.

 教会付属の修道院にあるギルランダイオの「最後の晩餐」が月,火,土曜日の午前中に常時公開されているという貴重な情報も得た.今日も開いていた扉から少しだけ垣間見ることができたが,今度じっくり見せてもらいに必ず行くつもりだ.





夕方のお祈りの時間の前の
オンニサンティ教会