フィレンツェだより番外篇 |
![]() サンタナスタージア教会 聖水盤をのせた彫像 |
§ヴェローナ市内観光篇(その2) ![]()
その結果は次の通り, 1.サン・ゼーノ聖堂のガイドブックは,22日午後に拝観して,無事に入手した.薄いうえに伊・英・仏・独の4か国語で書いてあるので情報量は少ない.その点は残念だが,昨年からの懸案事項が解決できたので嬉しかった. 2.カステルヴェッキオ美術館での写真撮影は,時間の都合もあって,全部撮るという訳にはいかなかった.興味深い画家の作品を撮り損ねていたり,写っていてもボケてしまっている場合も少なくない.しかし,前回,途中で写真可であることに気づいたものの,時間の関係で写真を撮りに戻れず,重要な作品の大半を撮り損ねたという無念をかなり解消できた. 前回買い求めた英語版の図録は,比較的薄手で,写真がないどころか,作品名すら載っていないものも多数あり,情報の少なさに少し失望させられたが,その情報も補完することができた. 3.レオーニ門は,昨日報告したようにしっかり見た. 4.スカリジェーリ宮殿のアルティキエーロのフレスコ画は,同宮殿が現在はヴェローナ県庁になっているので,見学には許可がいるとのことだった.中庭を覗けるところまでは行き,もう一つの見ものとされる井戸は見えたが,フレスコ画は見えなかった. ここにアルティキエーロのフレスコ画があることは,いろいろな本で紹介されているが,どこにも写真はないので,どういうものかはわからない.英語版ウィキペディア「アルティキエーロ」に拠れば,フラウィウス・ヨセフス『ユダヤ戦記』に基づくものとのことだ.残念だが,いつかチャンスはあるだろう.
5.前回拝観していない教会の中で,次の教会は魅力的に思えていた.
これらの教会には,ヴェローナの地元の画家たちの作品が多く見られるということだった. この他にもスカーラ家の君主たちの人目を引く墓があるサンタ・マリーア・アンティカ教会も,外からカングランデ1世,マスティーノ2世,カンシニョーリオの廟墓を眺めただけで,堂内は拝観していない. 旅行の前には知識がなかったが,帰国後読んだ『バディーレ家』に拠ると,サンタ・マリーア・デッラ・スカーラ教会にはジョヴァンニ・バディーレの「聖ヒエロニュモス伝」という,礼拝堂の壁面を埋める大きなフレスコ画があるようなので,いつかは拝観したい. 結局,今回,上記の教会には1つも行かなかった.サン・フェルモ,サンタナスタージア,サン・ゼーノを優先して,ヴェローナ・カードで他に拝観できるドゥオーモとサン・ロレンツォ教会も割愛した. ![]() たとえばサンティ・アポストリ教会には,アレッサンドロ・トゥルキ,フェリーチェ・ブルーザソルチ,シモーネ・ブレンターナ,ジョヴァンニ・エルマーノ・リゴッツィという地元の画家たちの絵があるようだ.16世紀後半から17世紀に活躍した人々だ.紹介ページにはさらに12世紀のフレスコ画もあるとされ,スペインの巨匠スルバランの名も挙げられている. この教区教会のすぐ傍にはサンテ・テウテリーア・エ・トスカ教会がある.前回,通りすがりに偶然拝観したが,地下教会のような蒼古とした狭い堂内に墓碑と祭壇がある以外,とりたてて見るべき芸術作品があるようには見えなかった.しかし,こじんまりとしたギリシア十字架型の建物は,ラヴェンナのガラ・プラキディア霊廟を思わせる外観で由緒ありげだ. いずれにせよ,ヴェローナの教会は魅力的だが,28日の自由行動では,サン・フェルモ,サンタナスタージア,サン・ゼーノを拝観しただけだった.これらの教会に最も見るべきものがあり,前回の印象を補強したいと思ったからだ. 殉教者ペテロ教会 サンタナスタージア拝観後,すぐ前の殉教者ペテロ教会のフレスコ画を鑑賞した.帰国後に読んだ『バディーレ家』のおかげで,この教会のフレスコ画の幾つかの作者がバルトロメオ・バディーレであり,2つはジョヴァンニ・バディーレ作の可能性があることがわかった. 下の写真はバルトロメオの作品だ.一面に広がる細かい傷は,漆喰を上塗りするためにつけられたものであることは,昨日報告した通りだ.
しかし,一番大きく,主題として魅力的な「閉ざされた庭の聖母への受胎告知」は未だに,作者が誰で,いつ頃の時代のものか情報がない.ヴェローナの絵画に精通した人なら知っていることなのだろうが,あるいは,専門家の興味を引くものではないのかもしれない.
左側に告知の天使がおり,上部に聖霊の鳩を飛ばす父なる神が描かれているので,全体としては「受胎告知」であろうと思う.しかし,庭を閉ざしているのが城壁で,聖母にはユニコーンが身を寄せおり,城壁の内外には様々な象徴であろう動物たち,天使の反対側になる向かって右側の城外には武将姿の人物が従者を連れて控えている絵柄が,他で見た記憶がなくて,おもしろい.
ヴェローナ・カードの恩恵再び サンタナスタージアを出て,殉教者ペテロ教会の建物が面している通りのバス停で,サン・ゼーノに行く73番のバスを待っていたら,年配の女性に声をかけられた.私たちが正しいバス路線を選択しているかどうか心配してくれたようだ. ラヴェンナから来たというその人は,息子さんがヴェローナに暮らしていて,市内に精通しているようだった.私たちも前日はラヴェンナにいたので,傍目には固有名詞の羅列だけに思えるようなやり取りだったと思うが,それでもその方の乗るバスが来るまで,にこやかに会話して過ごした. 73番のバスは,駅と川向こうのターミナルの間を巡回している.私たちの乗ったバス停からだと,一旦川向こうの終点まで行き,時間調整してから,駅方面にあらためて出発する.その途中に私たちの目指すサン・ゼーノ聖堂がある. 前回も川向こうの終点まで行ってから戻って来たので,バスが駅からぐんぐん逆方向に走っても,不安はなかった.観光客らしい家族連れも一緒だった.一旦終点に停まっても,イタリアのバス乗車券は有効時間内であれば,何度でも乗り換えができる.そもそも私たちはサン・フェルモ教会を拝観する際に,ヴェローナ・カードの1日券を買っていたので,市内バスは乗り放題だった. ヴェローナ・カードは1日券だと8ユーロ,3日券だと12ユーロで,2日以上いる場合は3日券が絶対に得だが,なにしろ今回は2時過ぎから,カステルヴェッキオ美術館が閉まる7時半まで5時間ちょっとなので,1日券でももとが取れるかどうかというところだった. しかし,結局3つの教会(1つの教会2.5ユーロ)と1つの美術館(4ユーロ),バスに1回乗った(1時間有効の乗車券1ユーロ)ので,ヴェローナ・カードを買わなければ1人12.5ユーロかかっていたことになるので,十分もとは取った. サン・ゼーノ聖堂 まずヴェローナ・カードを見せて入場し,修道院回廊の絵葉書を売っているコーナーで,念願のガイドブックを買って,回廊側の扉から堂内に入った. マンテーニャの多翼祭壇画はフィレンツェで修復中なので,ここには,言ってみれば超弩級の芸術作品はないわけだが,ファサードの扉を覆っているブロンズ彫刻は12世紀から作られ始めた古いものだし,伝ロレンツォ・ヴェネツィアーノの「キリスト磔刑像」,伝アルティキエーロのフレスコ画「キリスト磔刑」など魅力的な作品もある.
なによりも,作者がよくわからず,芸術としての水準も高くないかもしれないが,興味深いフレスコ画が堂内に満ちていて,私はこの教会が好きだ.16世紀以降の名のある画家としては多分,フランチェスコ・トルビードの祭壇画「聖母子と聖人たち」(聖人はアンナ,ゼーノ,セバスティアヌス,クリストフォロス)があるくらいだろう.1520年の作品とのことだ. 聖堂と隣接する回廊にもフレスコ画があり,これについても情報がないが,芸術性はともかく,ヴェローナのフレスコ画一杯の雰囲気が好きなので,やはりいつかはヴェローナにゆっくりと滞在して,サン・ゼーノで数時間費やし,あるいは何日か通って,フレスコ画を一つ一つじっくりと見たい.
マンテーニャとベッリーニ サン・ゼーノで本物のマンテーニャを見ることができていないが,後で,カステルヴェッキオ美術館で購入した本に, Tiziana Brusco & Cristina Beghini, eds., Mantegna e le Arti a Verona, Venezia: Marsilio, 2006 がある.もともとは2006年に,パドヴァ,ヴェローナ,マントヴァが連携して,それぞれの都市で行なわれたマンテーニャ展のうち,「マンテーニャと1450年から1500年のヴェローナの芸術」に関連して出版されたものであろう.特別展の図録ではなく,教会を中心にヴェローナのどこでマンテーニャの影響を受けた作品が見られるかを解説したもので,写真が美しく,それぞれの教会についても情報が豊富なので有益だ. マンテーニャ自身の作品は,ヴェローナには,サン・ゼーノ聖堂の多翼祭壇画,カステルヴェッキオ美術館の「聖家族と女性聖人」の2点があるのみと思われるが,その影響の大きさははかり知れないものがあると想像される.
ただ,印象として,マンテーニャの影響は,少なくともヴェローナでは,マンテーニャの同年輩の義兄弟で,自身もマンテーニャの影響を受けたジョヴァンニ・ベッリーニの影響に圧倒されていくように思われた. 今回,ヴェローナの諸教会を拝観できていないし,あるいは見てもわからなかったかも知れないないので,あくまでこの本から得た感想と,カステルヴェッキオ美術館の常設展示作品及び,今回見られた特別展「ジローラモ・ダイ・リブリ ルネサンス期ヴェローナの画家と写本挿絵画家」を通しての印象である.
![]() もともとマンテーニャには,昨年,偶然にチョンピ市場の露店の古本屋で買った小さな画集を見て以来,興味があった.フィレンツェ,マントヴァ,パドヴァ,ヴェネツィア,ミラノで実際に彼の作品を見て,その思いを新たにしてきたが,ジョヴァンニ・ベッリーニに関しては,ヴェネツィア派の巨匠という予備知識だけが,彼の作品を見たいと思う動機だった.実際に見られた作品も,これまでのところ,それほどの感動を覚えて来なかった. しかも今回,ペーザロでは期待していた祭壇画が見られなかったし,前回見られたカステルヴェッキオ美術館の「聖母子」もどこかの特別展に出張中だった.唯一見られたのは,それほど高い評価を得ていないと思われる,マルケ国立美術館の作品だけだ.
そのことと,ヴェローナで今回見ることができて,多少の知見を得られた地元の画家たちについては,「続く」としておきたい.フィレンツェだよりをWebにアップする際,最初の読者として厳しいチェックをしている妻が,明日から山口に帰省して数日留守にするので,その間,私は遅れている仕事と平行して,息抜きに,撮ってきた写真,買ってきた本,インターネットの情報を整理しながら,感想をまとめておこう. ![]() |
![]() マエストロ・グリエルモとその工房 「最後の晩餐」 サン・ゼーノ聖堂扉の青銅装飾 |
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