フィレンツェだより |
フラ・アンジェリコの墓 サンタ・マリーア・ソプラ・ミネルヴァ教会 |
§3度目のローマ旅行 - その6
回ったのは,サンタ・マリーア・ソプラ・ミネルヴァ教会(以下ミネルヴァ教会),サン・ルイージ・デーイ・フランチェージ教会(以下ルイージ教会),サンタゴスティーノ教会の3つだ.これに時間があればサンタ・マリーア・デッラ・パーチェ教会も拝観したかったが.これは断念した. 上記の3つの教会はすべて,前回10月に1度拝観した教会だ.いずれも前回見落とした作品もあるし,ルイージ教会とサンタゴスティーノ教会には何度見てもすばらしいカラヴァッジョの作品がある.カラヴァッジョ・ファンの友人のために前回買い損ねた絵葉書を入手するという目的もあった. サンタ・マリーア・ソプラ・ミネルヴァ教会 前回見損ねた作品が1番多いのがミネルヴァ教会で,拝観中に昼休みの時間に入ってしまい,数ある見どころのうち,フィリピーノ.リッピのフレスコ画だけしか見られなかった.その後入手した『地球の歩き方』ローマ篇にも昼休み情報はなかったが,用心のため,この日は一番最初に訪ねることにした. 午前中の早い時間ということもあって人影も少なく,広さに比して窓が少ないせいか思ったよりも暗く,閑散とした堂内は一層がらんとして感じられた. リッピのフレスコ画には神学者トマス・アクィナスが描かれており,ということは,ここはドメニコ会の教会ということになる.フィレンツェでドメニコ会と言えば,サンタ・マリーア・ノヴェッラ教会が有名だが,サン・マルコ教会の,現在は美術館になっている修道院もフィエーゾレのサン・ドメニコ修道院から来た修道士たちが開いたものだ. その修道士たちの中に天才画家フラ・アンジェリコがいた.彼の墓はこの教会にあり,左翼廊の礼拝堂に彼は眠っている.合掌して一礼した. 祭壇には彼の作品とされる小さな「聖母子」があった.喜捨で照明がつくので,明かりをつけてじっくり鑑賞した.佳品だと思うが,フラ・アンジェリコの作品とは思えない.ベノッツォ・ゴッツォリの作という説があるようだが,丸顔にこだわりがあると思われるゴッツォリの作品であれば納得が行く.
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フラ・アンジェリコの墓のある礼拝堂の2つ右隣が中央祭壇と後陣だが,中央祭壇の左側には大理石でできた「十字架を担うキリスト」像がある.作者はミケランジェロだ.
前回は時間切れでこれも遠目にしか見られなかったが,今回は暗い堂内でじっくり鑑賞した.中央祭壇右手の「洗礼者ヨハネ」も立派だが,これは19世紀のオビーチという彫刻家の作品のようだ. 前回は見られなかったが,ガイドブック等に紹介されているのが,ペルジーノ作とされる「救世主キリスト」とアントニアッツォ・ロマーノの「受胎告知」だ. 前者は左側廊の礼拝堂にあり,一目見てペルジーノ風の顔とわかるキリストだが,真作にしては感動が足りない.真作でも同じような作品が多く,毀誉褒貶のある画家だが,いくら何でも大芸術家の作品ではないだろう.後者は右側廊にあり,華やかな佳品だった. 聖具室の奥にもう一つの「受胎告知」アントニアッツォのフレスコ画があるようだが,これは見ていない.今回ローマで「受胎告知」は,ピエトロ・カヴァッリーニのモザイク(サンタ・マリーア・イン・トラステヴェレ教会),チェッキーノ・デル・サルヴィアーティのカンヴァス画(サン・フランチェスコ・ア・リーパ教会),アントニアッツォ・ロマーノの板絵(ミネルヴァ教会),メロッツォ・ダ・フォルリのフレスコ画(パンテオン)を見ることができた.それぞれに味わいのある作品だと思う. ![]() その英語版ガイドブックによって得た知識だが,他にもフェデリコ・バロッチの「聖体拝領」,ラファエッリーノ・デル・ガルボの「異教の犠牲」と「ウィルギニアの物語」があるらしい.ラファエッリーノの作品があるのはどうも通常公開されている所ではないようだが,バロッチは右側廊の大きなアルドブランディーニ礼拝堂にあったようなので,見逃したことになる.ま,何でも完璧には行かないから,後日の楽しみを残したということだろう.この教会は何度も訪れる価値がある. サン・ルイージ・デーイ・フランチェージ教会 その後,ルイージ教会でカラヴァッジョの「聖マタイ」三部作に再会した.何度見てもすばらしい. 前回見落としたドメニキーノの「聖チェチーリアの物語」のフレスコ画も鑑賞した.この作品は左側廊の礼拝堂の左右の壁面にあるが,正面の祭壇画に目をやると,どこかで見た作品だ.ボローニャの国立絵画館で見たラファエロの「聖チェチーリア」のコピーらしい. 中央祭壇の大きな祭壇画はフランチェスコ・バッサーノの「聖母被昇天」で,華やかな絵だ. ガイドブックは売っていなかったが,友人のお土産にするカラヴァッジョの絵葉書を買った.
サンタゴスティーノ教会 サンタゴスティーノ教会のカラヴァッジョは「巡礼の聖母」1点だけだが,ラファエロのフレスコ画「予言者イザヤ」が柱に残っている.そのフレスコ画の下には,フィレンツェのサン・ジョヴァンニ礼拝堂の「天国の門」の上の彫刻「キリストの洗礼」の作者アンドレーア・サンソヴィーノの「聖母子と聖アンナ」がある.
この教会はサンタゴスティーノ(聖アウグスティヌス)という名前からもわかるように,古代の思想家で聖人のアウグスティヌスを名のもととする修道会アゴスティーノ会の教会である.フィレンツェではサント・スピリト教会がこの修道会の教会である.アウグスティヌスの母聖モニカの墓があるとされている. グェルチーノの「聖アウグスティヌスと洗礼者ヨハネ,隠修士パウロ」など2点の絵があり,「聖アウグスティヌスと聖グリエルムスの礼拝堂」にはジョヴァンニ・ランフランコが複数の作品を残している.どちらも現在のエミリア・ロマーニャ州の出身で,ローマでも活躍した.ローマで見られるバロック時代の絵画の多くがボローニャなどのエミリア・ロマーニャの画家によって描かれていることに驚く. 同じことを,この日の午後拝観したサンタンドレーア・デッラ・ヴァッレ教会,スパーダ美術館でも感じた.どう感じたかは,「続く」としたい. |
サン・ルイージ・デーイ・フランチェージ教会 華麗な堂内 |
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