フィレンツェだより |
トレヴィの泉 ローマ |
§3度目のローマ旅行 - その1
見たいものはたくさんあるが,この後にミラノ旅行(1泊2日),シチリア旅行(6泊7日)が控えている.帰国を前に健康でいることは最重要課題なので,身体に負担をかけ過ぎないよう控えめの計画をたてた. ![]() 一昨年の9月の時は,ミケランジェロ作以外のフレスコ画と祭壇画にはほとんど注意を払わずにいたが,多少の知識を蓄えた今見れば,違う感想が得られることは十分予想された.しかし,観光シーズンで3時間並んだ前回ほどではないにせよ,やはり時間がかかるのは必至だ.短い旅程に組み込むのは困難で,次回の楽しみということにした. ![]() 未訪の美術館の中ではコルシーニ宮美術館,コロンナ宮美術館をまずあきらめた.美術館ではないがラファエロとソドマのフレスコ画のあるファルネジーナ荘は,最後まで時間配分を検討したが,結局断念し,これも次回の楽しみに回された. その結果,3日間で見たのは,以下の通りだった.
こうして並べると随分たくさんの所に行ったものだと感心する. 前回地下鉄で,刃物を使った掏りに遭ったトラウマがあり,地下鉄はなるべく避けたかったので,トレヴィの泉の近くに宿を取り,徒歩で回ることを優先した.バスの方が地下鉄よりまだ安全という情報もあったが,乗るのは良くても,イタリアは車内に次の停留所のアナウンスがないので,間違いなく目的地で降車する自信がない.それで余程悪天候にならない限り,バスも利用しないことにした. 自分の足で歩けば土地勘もできて,街になじむのも早い.3日とも好天という訳にはいかなかったが,それでもまずまずの天気に恵まれ,おかげでフィレンツェとはまた異なる街のたたずまいを楽しむことができた.
![]() サンタ・プデンツィアーナ教会 今回最初に拝観することにしたサンタ・プデンツィアーナ教会は,前回のローマ行で,同じく駅に近いサンタ・マリーア・マッジョーレ教会,サンタ・プラッセーデ教会と一緒にまとめて拝観する予定だった.しかし,一番最初に行ったサンタ・プラッセーデが予想を遥かに超えて見るべきものが多く,昼休みに差し掛かってしまい,昼休みのないマッジョーレ教会は見られたものの,サンタ・プデンツィアーナはあきらめた経緯があった. 予習に際して参考にしたのは,妻の友人の向田さんが日本から送ってくださった『地球の歩き方 ローマ 2007〜2008』だが,それによるとサンタ・プデンツィアーナ教会は,昼休みがないことになっている.それで安心して,朝はゆっくりしたかったので,お昼ギリギリ前にローマに着く遅めのユーロスターを予約した. 電車は時間通りに着いたが,それでも教会に到着したときは12時半くらいになっていた.拝観は無事できたが,私たちが一通り見終わるのを待って,聖具室係の方が扉を閉めたので,やはり昼休みはあるようだ. 聖プデンツィアーナは聖プラッセーデと姉妹で,父親とともに古代ローマ人で最初の殉教者ということになっているが,教会としての規模はプラッセーデが圧倒的に大きい.そのプラッセーデに昼休みがあるのだから,プデンツィアーナにもあると考えた方が無難だろう.
![]() 一昨年のローマ旅行の際に妻が買った『ワールド・ガイド ローマ・フィレンツェ・ヴェネツィア・ミラノ』には「モザイクの美にふれる」という特集ページ(pp.126, 127)があり,モザイクが見られる教会がリストアップされていた.そこに紹介されている教会のうち,サンタ・マリーア・マッジョーレ教会,サンタ・プラッセーデ教会以外の教会にはまだ行っていなかったので,今回は是非それらの教会を拝観したいと思っていた. サンタ・プデンツィアーナ教会のモザイクは後陣の半穹窿型天井にあり,キリストが中央にいて使徒たちに教義を伝授する図柄になっている.キリストが持っている本には「主にして,プデンツィアーナ教会の保護者」とラテン語で書かれている. キリストの左右にはペテロとパウロがおり,彼らに女性がそれぞれ王冠を被せようとしている.これらの女性は初期教会のユダヤ人以外の信者とユダヤ人の信者を意味していて,伝統的にはそれぞれがプラッセーデとプデンツィアーナに擬せられるらしい.中世以後の宗教画ではペテロは鍵,パウロは剣を持っていることが多いが,このモザイクにはそのアトリビュートはない. 玉座のキリストの頭上に,ゴルゴタの丘の十字架が宝石で飾られて描かれているが,その周囲には天使,ライオン,牛,鷲の姿が大きく描かれている,マタイ,マルコ,ルカ,ヨハネの4福音史家を意味するこの図像のきわめて古い作例とのことだ. 5世紀の作品ということなので,非常に貴重なモザイクなのだが,随分新しい印象を受けるのは,おそらく相当に修復しているのだと思う.
![]() 堂内を一通りゆっくり見ることができたのは,待っていてくださった聖具室係の方のご好意だったかも知れない.見られなかったマリア祈祷堂(マリアーノ・オラトリオ)のフレスコ画の絵葉書と英訳版ガイドブックを購入して,辞去した. フランチェスコ・ボッロミーニの美しい教会 教会を出て歩を進めるとクアットロ・フォンターネ通りと9月20日通りが交差する辻に出る.四角にはそれぞれ泉(フォンターナ)があって,立派な彫像で飾られているが,交通量が多いので,排気ガスでひどく汚れていた. この泉の傍らにサン・カルロ(カルリーノ)・アッレ・クアットロ・フォンターネ教会はあった.対抗宗教改革時代に活躍した16世紀の聖人カルロ・ボッロメーオを記念して作られた教会で,ジャン=ロレンツォ・ベルニーニとともにローマのバロックを現出したとされるフランチェスコ・ボッロミーニが設計している. 幾つもの円と楕円を連結させた幾何学的模様の楕円型のクーポラを堂内から見上げた様子が大変美しく,彼の代表作のひとつとされている.
すぐ近くには,彼のライヴァルであったベルニーニの設計によるサンタンドレーア・アル・クィリナーレ教会があるが,すでに昼休みに入っていたので外観を見るに止まった.この教会は3日目の夕方,帰りの電車に乗るべくテルミニ駅に向かう途中に拝観することができた.
クィリナーレの丘 クィリナーレの丘はローマのいわゆる「七つの丘」のひとつで,16世紀の教皇が作った宮殿は,かつてイタリア国王の王宮にもなったが,現在は大統領官邸になっている. 官邸前の広場は開放されていて,オベリスクとローマ時代の大きな「カストルとポリュデウケス」の像で飾られた噴水があり,ベンチがいくつか置かれている.暖かな陽射しと心地よい風のなか,遠くサン・ピエトロ聖堂のクーポラを眺めながら,朝用意してきたサンドイッチをベンチで食べて,トレヴィの泉に向かった.
トレヴィの泉 トレヴィの泉は一昨年以来2度目だ.行く前は,観光写真によく乗るので,もう少し俗っぽいところかと思っていた.人が多いので掏りに気をつける必要はあるが,意外なほど快適な空間と言える. 18世紀に建築家ニコラ・サルヴィが完成させた,バロック風彫刻に満ちた立派な建造物で,中央の見事なネプトゥヌス(ネットゥーノ)像はピエトロ・ブラッチというやはり18世紀の彫刻家が付け加えたものだ.芸術家として一般に知られているとは思えない人たちが,これだけのものを作ってしまうところが,イタリアのすごい所だろう. この日は,以前来た9月ほどの人出ではないと思ったが,翌日,翌々日と,日を追う毎に観光客が増えた.ある意味でトレヴィの泉はローマ観光の象徴と言えよう. とかくするうちに宿に到着した.快適で従業員も親切,好感が持てるホテルだった.何と言っても場所が良い.荷物を置いて,3度目のローマ見学が本格的に始まるが,それについては「続く」としたい. |
ピンチョの丘から見たポポロ広場 遠くにサン・ピエトロ聖堂のクーポラ |
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