フィレンツェだより
2007年4月22日



 




バルジェッロ宮殿の塔
向こうにバディア・フィオレンティーナ教会の尖塔



§バルジェッロ美術館

ウフィッツィの翌日なので,体力の温存も考えないではなかったが,せっかくの完全休日だ,どこか行ける所があれば行こうと相談がまとまった.


 この前行った時に閉まっていた「ダンテの家」を見てこようかと話し合ったが,最新のガイドブックをチェックすると,現在休館中だった.ミケランジェロの遺族の屋敷「カーザ・ブォナローティ」も候補のひとつだったが,午後2時で閉館となる.バルジェッロ国立美術館なら遅い時間までやっているようだから,そっちにしようということになった.

 13世紀に建て始められて,国家としてのフィレンツェが他国人を採用した警察長官を普通名詞としてバルジェッロという(小学館『伊和中辞典』)そうだ.16世紀にそのバルジェッロの館となり,建物の一部は牢獄,拷問室,処刑場として使われた,と『最新完全版ガイドブック フィレンツェ』(リヴォルノ,2007)(日本語訳はフィレンツェ大学の中嶋浩郎先生)に書いてあった.


美術館になったのは1865年の,まだロートリンゲン家のトスカーナ大公のいた時代だそうだ.中庭から見る四方の壁には紋章がところ狭しと並んでいる.



ライオン,グリフィン(写真),ユニコーンなどが多いのはやはり,戦士が貴族だった時代のなごりもあるのだろうか.商人が力を持ったフィレンツェにもまた別の面もあるのかも知れない.


 フィレンツェを象徴する動物としてライオンが好まれているようで,あちこちにライオンの像が見られる.バルジェッロ美術館でも幾つも見られた.市を象徴するライオンを「マルゾッコ」というそうだが,ドナテッロの「マルゾッコ」は一見の価値があった.

 ドナテッロの作品を多く置いた部屋は天井が高く,広くて,部屋を見るだけでも圧倒される.あの帽子を被った少女のような姿の有名なブロンズのダヴィデ像別画像)は可憐に見えるが,剣と石を手に,兜をかぶったゴリアテの首を踏みしめている.

 同じく大理石のダヴィデ像もあって,こちらもゴリアテの首を踏みしめているが,その額には石が食い込んでいた.オルサンミケーレ教会の壁龕(へきがん)として作られた「聖ゲオルギウス」の像は美丈夫で素晴らしかった.




 建物内の教会にジョット作とされるのフレスコ画あり,そこにダンテの肖像があるとガイドブックにはあったので,探し回って,教会というより礼拝堂(礼拝室)のような一角を見つけたが,鉄の扉(柵)が閉まっていた.隙間から,壁面の伝ジョットのフレスコ画が見えた.

 遠目に探索した結果,ダンテと思われる姿を発見した.あとでガイドブックで確認したら,やはりこれがダンテだった.

写真:
礼拝堂のダンテ
伝ジョットのフレスコ画
ダンテの肖像


 多くのものを見過ごしそうだったが,結果的には一通り見ることができた.

 ヴェロッキオのダヴィデ像もあった.その部屋には彼の作品が幾つか展示されていて,どれも見事だったが,彼以外の作品ではメディチ家の人々の胸像が印象に残った.

 例のロッビア一族のテラコッタ作品も溢れるほどあり,うんざりする一方で,門外漢の私たちでも,その技術の高さには感心せざるを得ない.

 それほどの美意識を持った人たちが収集したマヨルカ焼きなどの陶器の趣味の悪さにも驚く.私たちと趣味があわないだけだろうが,陶器コレクションの展示は次回からは省略する.




 3階,2階の膨大な作品群を堪能して,さらに1階の展示室に降りると,今日もミケランジェロがあった.

 若い頃の作品である「バッカス」のほかに,授業の資料にも時々使わせてもらっている「ブルトゥスの肖像」,「トンド・ピッティ」と通称されるらしい聖母子(マドンナ・コル・バンビーノ)と幼児の洗礼者ヨハネの未完の像,ダヴィデともアポロンとも言われる未完の立像を見ることができた.

 最後のものはやはりダヴィデのように思えるが,圧倒的に素晴らしい.若い頃のバッカス像も後ろ姿には力感溢れる美しさがあり,付き従うシレノスの像が良いと思った.ミケランジェロは本当にすごい.

 ダニエーレ・ダ・ヴォルテッラという彫刻家のミケランジェロの胸像もあったが,雰囲気十分の作品に思えた.

 同じ部屋にジャンボローニャのヘルメス像,チェッリーニのコジモ1世のブロンズの大きな胸像があり,これも素晴らしかったし,他にも見るべき作品が多いように思えた.毎日同じことばかり言っているが,ともかくすごいとしか言いようがない.バルジェッロ国立美術館(「博物館」と書いてあるガイドブックもある),是非行くべし,である.

写真:
中庭にて


 もともと幾つかの作品を所蔵しているデジデーリオ・ダ・セッティニャーノという彫刻家の特別展を開催中で,他の美術館(ルーヴルなど)から借りてきた作品も見せてくれていた.収蔵品である少年の姿の「洗礼者ヨハネ」が良かったが,他の作品も良かった.子供や少年(一応キリストや聖人ということになっているが)の表情を美しく見せてくれる作家に思えた.



 知らなかった作品も多いし,知っている作品についてもより多くの情報を得たいので,今日も帰りにガイドブックを買った.ウフィッツィでは小さな日本語版を買って,その情報の少なさに不満を持ったので,今日はそもそも日本語版はなかったし,やや大きめの英語版を8ユーロで買い求めた,つもりだった.

 「つもり」と言うのは,確かに私は英語版をレジに持っていったのだが,レジの中年女性が親切で,その本が汚れていたと思ったのか,まだ保護用のビニールに包まれたままの新品に取り替えてくれて,帰宅後見たら,それはスペイン語版だった.仕方がない,単語の見当はだいたいつくところもあるので,スペイン語版を写真を参考にしながら,読むことにしよう.

写真:
スペイン語版ガイドブック
表紙はヴェロッキオ作ダヴィデ


 ドォーモの前の広場にで出て,カヴール通りをサン・マルコ広場まで歩いて帰宅した.上品な通りで歩いていて気持ちが良い.途中にあるマーブル紙の店で,妻が友人(私にとっても同級生)へのお土産にするかも知れないレターセットを買った.私も気に入った模様だったので,自分の分もほしかったし,他にもほしいものがあったが,それはまた後日のこととすることにした.

 4時間近く,傑作の森をさまよったので,へとへとになって帰ってきた.





本日のドゥオーモ
コルソ通りから