フィレンツェだより |
チョンピ市場 魚市場のロッジアの横には花屋 |
§クリスマス・シーズンの楽しみ(第5弾)−プレゼピオ
夕方からは,福山さん情報のプレゼピオのある教会のリストをチェックして,いつも私たちがチェントロ(中心街)に出るときのコース上にある教会をテコテコ歩いて訪ねることにした. サンタ・マリーア・マッジョーレ教会 ストロッツィ通りに出て,ヴェッキエッティ通りで左に曲がりサンタ・マリーア・マッジョーレ教会を訪ねた.4時を少し過ぎたところだったが,堂内には既に観光客の姿があった.中央祭壇側の半分はロープで入れなくなっていたが,プレゼピオは入口すぐ左手にあった. どの教会のプレゼピオもそれぞれに意匠を凝らしたものだが,ここのプレゼピオは昔のヴェッキオ橋の風景を再現していた.現在はベンヴェヌート・チェッリーニの胸像が置かれている橋の真ん中の西側の空間に,聖母の膝に抱かれたイエスがいて,牧人たちが礼拝に来る場面になっている.奥にドゥオーモのクーポラが見えるので,オルトラルノ側からの風景だ.
![]() カルツァイウォーリ通りには白馬に跨る騎馬警官が出動していて,子どもたちの注目を集めていた.
サンタ・マルゲリータ・イン・サンタ・マリーア・デーイ・リッチ教会 次に,サンタ・マルゲリータ・イン・サンタ・マリーア・デーイ・リッチ教会(以下,リッチ教会)を訪ねた. こちらは中央祭壇の下にプレゼピオを作っていた.「イエスは人となった神です」という文字が書いてあって,それがあまり上手ではなく,幼稚園のクリスマス飾り(私は,今は同級生が住職を務める浄土宗のお寺が経営する幼稚園に通っていたので見たことはない)を思わせ,ほほえましい. しかし,プレゼピオはなかなか精巧だった.生まれたばかりのキリストが飼い葉桶(プレゼピオ)の中で両手を広げ,左側にはマリアが跪き,右側にはヨセフが杖をついて立ち,奥の家畜小屋からはロバと牛がその場面を覗き込んでいる,おなじみの光景だ. そして小屋の左隣には,電動工具のある仕事場がある.ヨセフが大工だからだろうが,それにしても電動工具とは斬新な! 羊と羊飼いたちが,礼拝に向かっているが,背景は最初明るかったのが,少しずつ暗くなり,月が出て夜になると天使の映像がスクリーンに映される工夫もあった.
サンタ・マルゲリータ・デーイ・チェルキ教会 その後,「ダンテの教会」サンタ・マルゲリータ・デーイ・チェルキ教会を訪ねた.もともと観光スポットだが,小さな教会に観光客が押し寄せ,すごい賑わいだった. ビアンカ・ネッリという現代画家のコルベ神父の絵を何点も展示していた. プレゼピオは中央祭壇前に作られていた.小屋はないが,ロバと牛はいて,マリアはキリストの左側で拝跪し,ヨセフはやはり杖をついて立っていた.牧人たちが参集して,まもなく礼拝が始まりそうな場面だ.
サンタンブロージョ教会 そこから,ボルゴ・ダルビツィオを通り,サルヴェミーニ広場,フィエゾラーナ通り,メッツオォ通りを進んで,サンタンブロージョ教会にたどり着く. ここのプレゼピオも家畜小屋を再現し,左に跪くマリア,右に杖を持って立つヨセフがいて,そこに牧人が参集する場面だが,階段や崖の模型で高さを出し,家畜小屋が丘の上にある設定の立体感のあるものだ.遠景の街はダンボール細工のようで,すこし稚拙に見えたが,それが気にならないほど,手作りの暖かい感じが出ている. 右側の礼拝堂には近所の子どもの折り紙細工のようなプレゼピオがあり,この教会は地元の信者に支えられている教会であることを思わせた.
![]() コジモ・ロッセッリのフレスコ画と板絵,アデモロのフレスコ画「最後の晩餐」と「嬰児虐殺」,レオーネ・タッソーの木彫の「聖セバスティアヌス」,ラファエッリーノ・デル・ガルボの「大修道院長アントニウス」,アンドレーア・ボスコーリの「エリザベト訪問」などはじっくり見ることができたが,ロレンツォ・ディ・ビッチの三翼祭壇画のある礼拝堂はプレゼピオがあったので見られなかった. オルカーニャ派,伝アーニョロ・ガッディ,伝ニッコロ・ジェリーニのフレスコ画,バルドヴィネッティの板絵「聖母子と天使たち,聖人たち」は暗くてよく見えなかったが,中央祭壇左の礼拝堂にあるロッセッリの「聖杯の奇跡」のフレスコ画を見ていたときに,聖具室係りの人が明かりをつけてくれたので,ここは十分な鑑賞ができたし,伝フィリーネの親方の「聖オノフリオ」もまずまず見ることができた. ささやかな喜捨をして辞去した.
帰途に,大いなる恵みあり 帰路はピエトラピアーナ通りから始まったが,チョンピ市場の灯りが見えたので,立ち寄ったところ,仮設店舗の中に古本屋があった. まず最初の店でベネデット・マルズッロ『ホメロス問題』(ミラノ&ナポリ,1970)の美本を15ユーロで,もう一つの店で,妻がワゴンから発掘したホラティウス『抒情詩集注解』(フィレンツェ,1949)を1ユーロで購入.「ホメロス問題」とは1795年にフリートリッヒ・アウグスト・ヴォルフによって提起され,以来,延々と学者の議論が続いている,「果たして『イリアス』と『オデュッセイア』を書いたのは,ホメロスという1人の詩人か?」という問題である.
![]() 本を物色中,通りがかりの人に「駅はどこですか」と尋ねられた.イタリア人に道を教えるのはこれで2度目だ.妻もサンタンブロージョ教会で「ミサは何時に始まるか」と尋ねられた.相手にわかるように答えられたかどうかは別にして,私たちも新来の初々しさが影を潜め,慣れが表情に出ているのかも知れない.もう後3カ月も経たないうちにフィレンツェを去ることになるのだが. |
私へのクリスマス・プレゼントになった 3冊の本 |
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