フィレンツェだより |
ホーン宮殿 中庭から空を見上げる |
§ホーン美術館
美術館はアルノ川にかかるグラツィエ橋の袂近く,サンタ・クローチェ教会とウフィッツィ美術館の間くらいのデ・ベンチ通りにあった. 建物もパラッツォの名にふさわしい立派なものだ.もとをたどれば14世紀に当時有力者だったファーニ一族によって建てられたらしいが,アルベルティ家,コルシ家と所有が移り,コルシ家のものとなった15世紀末にイル・クロナカ(シモーネ・デル・ポッライオーロ)の設計でできたのが現在の建物のもとになっており,その後も様々な所有者の変遷を経て,1911年にハーバート・ホーンの手に渡ったとのことである.
![]() ビリエッテリアで入場券(1人5ユーロ)と英語版ガイドブック(9.3ユーロ)を買い,順路を指示してもらった.写真はフラッシュを焚かなければ良いといわれた.
![]() この作品の前に立つと,その凛々しさに惚れ惚れしてしまう. 1330年代に描かれたという以外の重要な情報を今得ることはできない.一体,もともとどこにあって,どのような経緯をたどって,ロンドンで売りに出され,現在フィレンツェに鎮座することになったのだろうか,是非詳しい解説を読んで勉強したい. 額装されているが,もともとは違う形だったのだろう.真作であるのは間違いないのだろうが,この作品について色々知ることができればなあ,と思わずはいられない.
![]() ベッカフーミの作品はこの美術館にもう一つある.ウフィッツィにあるミケランジェロの「聖家族」のように丸い額に入った絵で,これも「聖家族」(1528年頃)だ.この作品は『最新完全版ガイドブック フィレンツェ』でも,ジョットの作品とともに挙げられているので,この美術館の目玉の一つなのだろう. 『最新完全版ガイドブック フィレンツェ』でもう一つ名前を挙げられている絵が,ドッソ・ドッシの「音楽の寓意」(1522年)だ.この作家の「妖術(ヘラクレスの寓意)」がウフィッツィにあり,やはり有名な画家だ. しかし,この美術館にも,やはり大変な宝がたくさんあった.1階のコイン・コレクション,陶器コレクションも立派だったし,これを展示した部屋にあったヤーコポ・タッティ(イル・サンソヴィーノ)の「聖母子」の浮き彫り彫刻,アニョーロ・ディ・ポッロの「救世主」のテラコッタ胸像などを見て,「お,なかなかじゃないか」と思っているうちはまだ余裕があったが,2階,3階に上がってからは興奮の連続だった. ピエロ・ディ・コジモの「聖ヒエロニュモス」,ベルナルド・ダッディの「キリスト磔刑図」,ベノッツォ・ゴッツォリの大きな「キリスト降架」なんていう作品がさりげなく展示してあり,ジャンボローニャの「跪くヴィーナス像」(テラコッタ)がゴッツォリの絵の前に置かれている.別の部屋に行くと,アーニョロ・ガッディ作とされる「キリストの顔」,ロレンツォ・モナコの小さな「キリスト磔刑図」があり,ともかく感動する.
パラティーナ美術館に「ヒュラスとニンフたち」(ギリシア神話)が収蔵されている,フランチェスコ・フリーニの印象に残る作品も2枚あった.「ロトの妻」(旧約聖書)と「アルテミシア」(古代史)だ. ネーリ・ディ・ビッチの「大天使ラファエルとトビアスと聖ヒエロニュモス」も立派だったが,ガイドブックでは写真が反転していた.ハリス・ブラウンという人が描いたホーンの肖像画もあって,美術愛好家の雰囲気をよく伝えた絵だった. フィリピーノ・リッピの絵は見ることができたが,フィリッポ・リッピの作品は見つけられず,後ろ髪引かれたが,1時の閉館前に係員の皆さんがそわそわしだしたので,残念ながら後日を期して退散した. サン・ニッコロ門のフレスコ画 ミケランジェロ広場の登り口のところに「サン・ニッコロ門」という塔がある.これまで何度もその横を通っているが,『最新完全版ガイドブック フィレンツェ』に,塔自体も1324年の建設と大変古いものだが,15世紀のフレスコ画「聖母マリアと聖人たち」を見ることができる,と書いてあるのを見つけて気になっていた. どうやったら見られるのかわからないが,ともかく行って見ようということで,美術館を出た足でそのままアルノ河畔へと向かった.
フレスコ画は簡単に見つかった.塔の第1層には床も何もなく,天井の下は直接地面だが,そのアーチ型の天井の前面にあった.内部なので「風雨に曝される」というのは言い過ぎかも知れないが,その大胆な扱われ方に驚いてしまった. 一つ一つどれも大切にするには,あまりにも色々なものがあり過ぎるということなのだろう.聖母子の隣の「聖人たち」は左は洗礼者ヨハネ,右は聖ゼノビウス(サン・ザノービ)だろうか.
![]() 街角の壁龕,紋章,教会につい目を奪われてしまう.小さな教会の扉が閉まっているのを見ると,あさましい話だが,あそこにもとんでもない宝があるのではと思えて,今度はここを訪ねてみたいと思い,フィレンツェ市が立てた解説の看板を写真に収めてきてしまう. 昨日の大雨が嘘のように晴れた日だったが,日陰と家の中は涼しく過ごしやすい. |
バディア・フィオレンティーナ教会 鐘楼が聳える |
![]() ![]() ![]() |