フィレンツェだより
2007年12月25日



 




サント・スピリト教会
ステンド・グラスのデザインはペルジーノ



§クリスマス・シーズンの楽しみ(第3弾)

こちらのクリスマスは日本の元日のようなものだろうか.


 国民の祝日であり,大抵の店や施設は休みとなるし,スーパー・マーケットや,日本で言うコンビニのような店も開いていない.車の通行量は少なくはないが,路線バスも動いていない.

 閑散とした街を歩くのも悪くないと思って,夕方から散歩に出た.クリスマスは宗教行事だから,もしかしたら未拝観の教会のどこかが開いているかも知れないという淡い期待もあった.

 今日は,プラート門を通ってプラート通りをまっすぐ行くいつものコースではなく,門の手前で右に曲がり,フラテッリ・ロッセッリ大通りからヴィットリア橋を渡って川向こうに出た.川岸には凧揚げを楽しんでいる人たちがいた.

写真:
凧揚げを楽しむ人々
のいる夕方の岸辺


 川風を避けるために,少し川から離れた道を選び,サン・フレディアーノ教会の裏の道から,サンタ・マリーア・デル・カルミネ教会の前の広場に出て,そこからサンタゴスティーノ通りを東進して,サント・スピリト広場に出た.

 サント・スピリト教会の扉は開いていた.もしかして宗教行事の最中かと恐る恐る中をのぞいたが,そうではなかった.フィレンツェに来て9カ月にして,ようやく堂内に入ることができた.

写真:
サント・スピリト広場と
サント・スピリト教会


 堂内には黒衣のアゴスティーノ会修道士さんも4人ほどいらしたが,教会関係者ではない係員の方々が拝観者整理にあたっておられる.わくわくしながら右側廊の礼拝堂から丁寧に見て行った.

 翼廊にあるネルリ礼拝堂で,フィリピーノ・リッピの「聖母子と聖人たち」を見つけた.これはさすがに良い絵だ.可愛いものが好きな日本人は,あのジョヴァンニーノを見るだけで幸せな気持ちになるに違いない.

 しかし,後陣にはロープが張ってあって入れなかった.ロープの中に入っている観光客もいたので,多分直前に少しずつ閉めていったのだと思う.ここには私たちの最大のお目当てであるマーゾ・ディ・バンコの祭壇画があるのだが,遠目に左側の聖人たち(2人目は洗礼者ヨハネだろう)が見えただけだった.

 この入れなかった後陣と反対側の翼廊にコジモ・ロッセッリ「聖母子と聖人たち」,伝フランチェスコ・ボッティチーニ「アゴスティーノ会の修道女たちに会則を与える聖モニカ」,アレッサンドロ・アッローリの「1万人の殉教」,ロレンツォ・ディ・クレーディ派「聖母子と洗礼者ヨハネ,聖ヒエロニュモス」があるようなので,見られなくて残念だった.

 右側廊のピエトロフランチェスコ・ディ・ヤコポ・フォスキ「無原罪の御宿りと教会博士たちの議論」,イル・パッシニャーノ「聖ステパノの殉教」,右翼廊のフォスキ「キリストの変容」,サグレスターニ「聖母の婚約」,左側廊のミケーレ・ディ・リドルフォ・ギルランダイオ「聖母子と聖人たち」など16世紀,17世紀の「反宗教改革」時代の絵画は見ることができたし,左側廊から入っていく聖具室にある伝ミケランジェロの木製の「キリスト磔刑像」も印象深い作品だった.

 しかし,何と言っても今日の最大の収穫はフィリピーノ・リッピだ.

 「開かずの教会」に思えたサント・スピリトに先日初めて入ることができ,今日は一部とは言え堂内の拝観ができた.実に幸運である.ともかく開いている日もあり,公務員のように見える係員が配置されて,見学が許されることもあることは良くわかったので,今日見られなかった諸作品は後日を期すことにする.


クリスマス休日の繁華街
 サン・フェリーチェ・イン・ピアッツァ教会,サンタ・フェリチタ教会は開いていなかったので,賑やかなコースを選びながら帰路についた.

 日曜日にも幾つか営業している店があるヴェッキオ橋も,さすがに今日は全ての店が閉まっている.それでも観光客はそこかしこに溢れかえっていた.

 ポル・サンタ・マリーア通りを北上する.いつも露店で一杯の新市場のロッジアには店が一つもなく,広々した空間に,クリスマスのイルミネーションが輝いていた.傍らの,名物のピエトロ・タッカ作の「猪」像も晴れ晴れとして見える.

写真:
ロッジアの星飾りの前で
恋人たちがキスを交わす


 そこからレプッブリカ広場を抜け,ストロッツィ宮殿の前を通って,ヴィーニャ・ヌオーヴァ通り,ゴルドーニ広場,ボルゴ・オンニサンティと,いつものコースを辿って帰宅した.





カリマラ通りの絵描きパフォーマンス
「聖母子」