フィレンツェだより
2007年9月29日



 




アッシジの町
サンタ・キアラ聖堂前の広場から



§無料の巡り合せ

今日(9月29日)と明日の2日間は,春の文化週間と同様に国立の美術館が入場無料になる日だ.


 春の文化週間の時に,この日のことも知ったのだが,すっかり忘れていた.最近フィレンツェ以外の都市に足を運ぶようになり,どこで何が見られるかばかりが気になっていたからかも知れない.友達はありがたい,フィレンツェ大学留学中の福山さんが教えて下さった.

 しかし,一昨日ラヴェンナから帰ってきたばかりだ.昨日休養はとったが,体調の回復は完全ではないかも知れないので,今回は欲張らず,今日サン・マルコ美術館を見て,明日の日曜日にパラティーナ美術館を訪問することにした.

 昨年9月に「予習」も兼ねて初めてイタリアを訪れた際,フィレンツェにも日帰りで足をのばしたが,そのときもパラティーナ美術館は今回と同じ理由で入場無料だった.その前日に行ったローマ国立博物館マッシモ宮殿も,同じ理由で無料だった.

明日,もし無料でパラティーナが見られれば,昨年,そして今年の春の文化週間と合わせて通算4回の訪問のすべてが無料だったことになる.


サンマルコ美術館,感動再び
 家のすぐ近くのバス停から17番のバスに乗り,サン・マルコ広場に向かった.途中,バスがいつもと違う道を走るので少し不安になった.降りてからわかったことだが,どうやらデモ行進があったらしい.それでも回り道をしながらもサン・マルコ美術館のすぐ裏で停車し,事なきを得た.

 サン・マルコ美術館も確かに入場無料だった.

 まず中庭付き回廊(キオストロ)で,今まで鑑賞が十分でなかったフラ・アンジェリコのフレスコ画「磔刑のキリストを礼拝する聖ドメニコ」をしっかり鑑賞し,あわせて両隣に描かれたチェッコ・ブラーヴォの「悲しみの聖母と聖ヨハネ」もじっくり見させてもらった.

 サン・マルコは基本的に撮影禁止だが,キオストロはどうやら写真可のようだ.何枚か撮らせてもらったので,紹介する.

写真:
フラ・アンジェリコ作
「磔刑のキリストを礼拝する
聖ドメニコ」


 元修道院であるこの美術館には,2つの大きな中庭付き回廊があるが,今回は「聖アントニーノの中庭」の方のリュネットに描かれた,ポッチェッティ他によるフレスコ画「聖アントニーノ(修道院長アントニヌス)の物語」もゆっくり見た.

 下の写真はその一部だが,サヴォナローラ(右の黒い服の人物)が描き込まれているのは意図的な時代錯誤である.

写真:
「聖アントニーノの物語」の1場面


 今日は午前中に到着したので,気持ちに余裕があり,フラ・アンジェリコやフラ・バルトロメオの作品だけでなく,ピストイアでその存在を認識したフラ・パオリーノマリオット・アルベルティネッリジョヴァンニ・アントニオ・ソリアーニプラウティッラ・ネッリの作品も丁寧に鑑賞できた.

 フィレンツェ周辺での3人目のリッピ,ロレンツォ・リッピの実力も確認できた.ロレンツォ・リッピ,ヤコポ・ヴィニャーリマッテーオ・ロッセッリの弟子で,17世紀に活躍したが,その時期に描かれた作品はフィレンツェのあちこちで見ることができる.

 ずっと気になっているビリヴェールトの絵も見ることができた.サン・マルコ美術館は15世紀のフラ・アンジェリコ,16世紀のフラ・バルトロメオだけでなく,17世紀の絵画に興味のある人にとっても必見の場所と言えよう.

 大きな絵では,フラ・アンジェリコの「キリスト磔刑と聖人たち」(参事会の間),ソリアーニの「聖ドメニコの奇跡の夕食」(大食堂)の素晴らしさを再確認したし,日本式に言うと2階にあたる修道士の部屋とその廊下の絵の中ではフラ・アンジェリコの「影の聖母」も特に幼児イエスと聖ラウレンティウスが良かった.

 弟子のベノッツォ・ゴッツォリがフラ・アンジェリコに協力した「三王礼拝」にもまた会うことができた.サン・マルコ美術館はいつ来ても素晴らしい.

最も良かったのは,言うまでも無くフラ・アンジェリコの階段上の「受胎告知」だ.


 フィレンツェで何度も見たいものを3つ挙げろと言われたら,1番目がサンタ・マリーア・ノヴェッラ教会のジョットの「キリスト磔刑像」,3番目がミケランジェロの「ダヴィデ像」,2番目はこの「受胎告知」だ.

 今日はブックショップになっている小食堂のギルランダイオの「最後の晩餐」も,まだ体力が残っている状態で見たせいか,とりわけ素晴らしく思えた.キリストと使徒たちの一人一人の表情が実に美しく,生き生きと描かれており,先日見たアッローリの「最後の晩餐」の比ではない.ギルランダイオは天才だ.

 息子のリドルフォの「腰帯の聖母被昇天」も大食堂にあり,ロッビア一族の作品も素晴らしいものが少なくとも4つ小食堂と洗手盤の間で見られる.



 入場料は無料だったが,かわりにブックショップで少し散財した.ほしいと思っていたが,今までどこでも売っていなかったサンタポローニアの旧食堂のデル・カスターニョ美術館,スカルツォ修道会の回廊美術館のガイドブックがここで売っていた.どちらも伊英対訳で情報豊富であり,これを読めるのはすごく嬉しい.

 また,さすがに「受胎告知」と「最後の晩餐」の傑作が見られる美術館らしく,英語版の「最後の晩餐」と「受胎告知」の小さな画集を売っていた.ロンドンのファイドン・プレスから出版されており,日本でも入手が簡単であろうが,今ほしかったので買った.

 またフランス語版の「受胎告知」の通史を購入した.一度に50ユーロを越す買い物は最近では稀だが,今日はお願いして財布の紐をゆるめてもらった.

 購入した「最後の晩餐」の小さな画集によれば,昨日紹介したラヴェンナのモザイクの「最後の晩餐」は現存する最古のものだそうである.私たちの撮った写真では,キリスト以外の人物がどうしても11人までしか数えられなかったが,この本の写真できちんと12人いることが確認できた.何せ,天井近くの高いところにある小さなモザイク画だったので,撮影が難しく,プロが好条件のもと,正面から写した写真に敵うはずもない.

 ウェブページから拾えるものと,自分たちで撮った写真で,かなりの数の「最後の晩餐」と「受胎告知」をストックして来たが,やはりしかるべき参考書で,正面からはっきり写っている写真を見るといろいろなことがよくわかる.この画集の写真も小さくて,決して最良のものではないが,画家の名前と絵柄と制作年代と現在どこにあるかという情報が得られるので,本当に貴重な参考書だと思う.



§アッシジの旅

 さて,前置きが長かったが,9月17日と18日,妻の友人向田千能さんと3人で,1泊2日のアッシジの旅に出た.17日の午前10時過ぎに,フィレンツェからローカル線の各駅停車でアッシジに向かった.

写真:
サン・フランチェスコ聖堂の
向こうに沈む夕陽


 途中アレッツォやペルージャなど有名な町も通ったが,トスカナ州のコルトーナとウンブリア州のペルージャの間で大きな湖が見えた.イタリア最大の湖水トラジメーノ湖だ.ローマ軍がこの湖のほとりでハンニバルに大敗北を喫した.琵琶湖よりは小さいようだが,遠くから見る限り美しい湖で,機会があれば訪れてみたい.

 アッシジまでは2時間半の旅で,座りっぱなしでも足腰に負担がかかるが,そうは言っても座席に余裕があって座れるのは助かる.うとうとしたり,おしゃべりしたり,向田さんが日本から買ってきて下さった『地球の歩き方 フィレンツェとトスカーナ 2006〜2007年版』を読んで予習(アッシジがあるウンブリア州の情報も載っている)したりして,2時間半はすぐに過ぎた.



 アッシジ駅で電車を降りたが,丘の上の町まではバスに乗る必要がある.その前に麓の町にあるサンタ・マリーア・デーリ・アンジェリ教会を訪ねることにした.非常に大きな聖堂で,その姿は駅からも容易に確認することができた.

 途中バールで軽い昼食を採って,たどり着くと,聖堂も付属の博物館も2時半まで昼休みだということがわかった.どうしようか迷ったが,一旦丘の上に上がってしまうと降りて来るのは非効率だし,帰りに寄るのも気ぜわしい.木陰で昼休みが終わるのを待つことにした.

『地球の歩き方』には時々「昼休み」の情報が欠けているが,イタリアでは多くの教会,美術館,商店が昼休みを取るのはめずらしくない.対応策は取り様がないが,心構えはしておいた方が良い.


 教会の前の売店で,

 ロレッタ・サンティーニ,荒川玲子(訳)『アッシジ フランチェスコの足跡』,Sesto Fiorentino: Centoro Stampa Editoriale, n.d.

を購入した.この本はコンパクトで大変役に立ったし,日本語訳もわかりやすかった.「イタリアの街散策シリーズ」と日本語で銘打っていたが,他の街の分も出ているのだろうか.ヴェローナでもラヴェンナでも日本語版のガイドブックが出ていたが,コンパクトな版型のものには日本語版がなかったので買わなかった.

 2時半に無事に聖堂の扉が開き,拝観させてもらえることになった.現役の教会なので拝観料はないが,写真撮影は禁止だ.ここで見られたもの,付属の博物館で見られたもの,また丘の上の町に登って,1日目に行ったサン・フランチェスコ教会については,「明日に続く」ということにしたい.





サンタ・マリーア・デーリ・アンジェリ教会
ファサード上部にマリア像が輝く