ネポス『ハンニバル伝』講読9 |
(テクスト) (4.1.) Conflixerat apud Rhodanum cum P. Cornelio Scipione consule eumque pepulerat. Cum hoc eodem Clastidi apud Padum decernit sauciumque inde ac fugatum dimittit. (4.2)Tertio idem Scipio cum collega Ti. Longo apud Trebiam adversus eum venit. Cum his manum conseruit utrosque profligavit. Inde per Ligures Appennium transiit, petens Etruriam. |
(語彙) (4.1.)(第1文) conflixerat:第3活用動詞configo, cofligere, conflixi, conflictum「戦う,争う,戦闘する」の直説法・能動相・過去完了・3人称・単数 apud:対格支配の前置詞「〜のもとで,〜のほとりで」 Rhodanum:第2変化・男性名詞Rhodan-us, -i, m.「ロダヌス河,(現在の)ローヌ河」の単数・対格 cum:奪格支配の前置詞「〜と(共に)」 P.:第2変化・男性名詞Publi-us, -i, m.「(男性の個人名)プブリウス(プーブリウス)」の省略形.ここでは奪格Publio Cornelio:第2変化・男性名詞Corneli-us, -i, m.「(氏族名)コルネリウス(コルネーリウス)」の単数・奪格 Scipione:第3変化・男性名詞Scipio, Scipionis, m.「(家名)スキピオ(スキーピオー)」の単数・奪格.ローマ人の名前は基本的に「個人名+氏族名+家名」の三つからなる.この場合はプブリウス・コルネリウス・スキピオという人物である consule:第3変化・男性名詞consul, consulis, m.「執政官」(ローマの最高行政官で任期1年で2名選出される)の単数・奪格 eumque:人称代名詞として代用される指示代名詞is, ea, id「彼,彼女,それ」+等位接続詞「〜と,そして」.「彼」はスキピオを指す pepulerat:第3活用第1形動詞pello, pellere, pepuli, pulsum「打つ,殴る,押し出す,追い払う,敗走させる」の直説法・能動相・過去完了・3人称・単数.主語はハンニバル |
(4.1.)(第2文) cum:奪格支配の前置詞「〜と(共に)」 eodem:形容詞的にも使われる代名詞idem, eadem, idem(-demは不変化で前の部分がis, ea, idに準じて変化)「同じ(人,物)の単数・奪格.「その同じ彼=スキピオ」 Clastidi:第2変化・中性名詞Clastidi-um, -i, n.「クラスティディウム(地名)」の単数・属格(=Clastidii)と同形となる地格(位格locative)「クラスティディウムにおいて」 apud:対格支配の前置詞「〜のもとで,〜河のほとりで」 Padum:第2変化男性名詞Pad-us, -i, n.「パドゥス河,(現在の)ポー河」の単数・対格 decernit:第3活用第1形動詞decerno, decernere, decrevi, decretum「(雌雄を)決する」の直説法・能動相・現在・3人称・単数.「歴史的現在」なので意味は完了と同じ sauciumque:第1・第2変化形容詞sauci-us, -a, -um「傷ついた,手負いの」の男性・単数・対格+等位接続詞「〜と,そして」.形容詞は省略されている代名詞「彼」(=スキピオ)に一致 inde:副詞「そこから」 ac:等位接続詞「〜と,そして」(=atque) fugatum:第1活用動詞fug-o, -are, -avi, -atum「追い払う,敗走させる」の完了分詞・男性・単数・対格.sauciumと等置される形容詞として扱われている.「彼を敗走させられた者として放逐する」=「彼を敗走させる」 dimittit:第3活用第1形動詞dimitto, dimittere, dimisi, dimissum「追い払う,放逐する」 |
(4.2)(第1文) tertio:第1・第2変化形容詞terti-us, -a, -um「三番目の,第三の」の奪格形が副詞「三度目に」として使われている idem:形容詞的にも使われる代名詞idem, eadem, idem(-demは不変化で前の部分がis, ea, idに準じて変化)「同じ(人,物)」の男性・単数・主格(イーデム).スキピオを修飾 Scipio:第3変化・男性名詞Scipio, Scipionis, m.「(家名)スキピオ(スキーピオー)」の単数・主格 cum:奪格支配の前置詞「〜と(共に)」 collega:第1変化・男性名詞colleg-a, -ae, m.「同僚」の単数・奪格 Ti.:第2変化・男性名詞Tiberi-us, -i, m.「(男性の個人名)ティベリウス」の省略形.ここでは奪格Toberio Longo:第2変化・男性名詞Long-us, -i, m.(元来形容詞なので女性形もありうる.特に氏族名の場合は女性は氏族名の女性形で表される)「(家名)ロングス」(祖先が「のっぽ」だったのだろうか) apud:対格支配の前置詞「〜のもとで,〜河のほとりで」 Trebiam:第1変化・女性名詞Trebi-a, -ae, f.「トレビア河」の単数・対格 adversus:形容詞から派生した対格支配の前置詞「〜に対抗して」 eum:人称代名詞として代用される指示代名詞is, ea, id「彼,彼女,それ」の単数・対格.ハンニバルを指す venit:第4活用動詞venio, venire, veni, ventum「来る,至る」の直説法・能動相・現在・3人称・単数.前の文では動詞は現在形が使われているので,綴り上は区別がつかない完了形(ウェーニト)ではなく現在形(ウェニト)と考えたが,後ろの文の動詞が完了なので,完了の可能性も高い |
(4.2)(第2文) cum:奪格支配の前置詞「〜と(共に)」 his:指示代名詞hic, haec, hoc「これ,この」の男性・複数・奪格.「この者たち=スキピオとロングス」 manum:第4変化・女性名詞man-us, -us, f.「手(→手勢,一団,部隊)」の単数・対格 conseruit:第3活用第1形動詞consero, conserere, conserui, consertum「結びつける,(決戦を)交える」 utrosque:不定代名詞uterque, utraque, utrumque(-queは変化せず,前の部分はuter, utra, utrumと同じ変化)「どちらも」の男性・複数・対格 profligavit:第1活用動詞proflig-o, -are, -avi, -atum「打ち倒す,滅ぼす,壊滅させる」の直説法・能動相・完了・3人称・単数 |
(4.2.)(第3文) inde:副詞「そこから」 per:対格支配の前置詞「〜を通って」 Ligures:第3変化形容詞Ligur(Ligus), Liguris「リグリアの,リグリア人の」の男性・複数形が名詞化して「リグリア人」という民族名を表している.ここでは対格 Appenninum:第2変化・男性名詞Appenninus(Apenninus), -i, m.「アペニン山脈」の単数・対格 transiit:第4活用動詞を基本とする不規則動詞trans-eo, -ire, -ivi(-ii), -itum「越える」の直説法・能動相・完了・3人称・単数 petens:第3活用第1形動詞peto, petere, petivi, petitum「求める,目指す」の現在分詞・男性・単数・主格.副詞的同格で「ハンニバルはエトルリアを目指して」という感じで,主動詞に連動 Etruriam:第2変化・女性名詞Erruri-a, -ae, f.「エトルリア(現在のトスカーナ地方を中心とするイタリア北部の地方)」の単数・対格 |
(試訳) (4.1.) ロダヌス河のほとりで,執政官であったプブリウス・コルネリウス・スキピオと干戈を交え,これを打ち破った.この同じ人物とパドゥス河のほとりのクラスティディウムで雌雄を決すべく戦い,彼に傷を負わせ,敗走させた.(4.2) 三度目に同じスキピオが同僚執政官のティベリウス・ロングスとともに,トレビア河畔で,ハンニバルに対峙すべくやって来た.ハンニバルは彼らと手勢を戦わせ,両者ともに撃破した.そこからリグリア人の間を通過して,エトルリアを目指してアペニン山脈を越えた. |