ネポス『ハンニバル伝』講読5 |
(テクスト) (2. 4.) Quae divina res dum conficiebatur, quaesivit a me vellemne secum in castra proficisci. Id cum libenter accepissem atque ab eo petere coepissem ne dubitaret ducere, tum ille, 'Faciam, ' inquit, 'si mihi fidem quam postulo dederis.' Simul me ad aram adduxit apud quam sacrificare instituerat eamque ceteris remotis tenentem iurare iussit numquam me in amicitia cum Romanis fore. |
(語彙) フルストップの来る文が3つなので1文ずつ (第1文) quae:関係形容詞(関係代名詞と同じ)女性・単数・主格 dovina:第1・第2変化形容詞divin-us, -a, -um「神聖な」の女性・単数・主格 res:第5変化・女性名詞res, rei, f.「もの,事」の単数・主格.ここでは神事,儀式を意味している dum:従位接続詞.従属文の動詞が直説法の時は「〜している間」,接続法の時は「〜するまで」.ここでは動詞が直説法なので前者 conficiebatur:第3活用第2形動詞cinficio, conficere, confeci, confectum「完遂する,成就する,遂行する」の直説法・受動相・未完了過去・3人称・単数(主語は「神事」) quasivit:第3活用・第1形動詞quaero, quaerere, quaesivi(quaesii), quaesitum 「尋ねる」の直説法・能動相・完了・3人称・単数(主語はハミルカル) a:奪格支配の前置詞「〜から」.「私から聞く」は「私に聞く」 me:人称代名詞ego「私」の奪格(ハンニバル) vellemne:不規則動詞volo, velle, volui(目的分詞形無し)「望む,欲する」の接続法・未完了過去・1人称+疑問を表す小辞-ne.接続法になっているのは間接疑問文(直接疑問文なら「お前は欲するか」という2人称になっているはずだが,この文はハンニバルの直接話法の発言の中でハミルカルの言葉を間接話法で引用しているので,「私が欲するか」という1人称の形になっている) secum:再帰代名詞「自分」(ここではハミルカル)の単数・奪格と奪格支配の前置詞(人称代名詞には後置されて一語を形成)「〜とともに」 in:対格支配の前置詞「〜へと」 castra:通常複数で使われる第2変化・中性名詞castr-a, -orum. n.pl.「陣営,基地,戦陣」 proficisci:第3活用の形式受動相動詞proficiscor, proficisci, profectus sum 「出発する」の不定法・受動相(意味は能動)・現在 |
(第2文) id:指示代名詞is, ea, id「それ,その」の中性・単数・対格.前文のハミルカルの提案内容を指す cum:従属文に直説法,もしくは接続法を取る従位接続詞.ここでは従属文の動詞が接続法・過去完了で,主動詞が直説法・現在(ただし「歴史的現在」なので副時称と考える)であるから「〜した後」 libenter:副詞「喜んで,自ら進んで」 accepissem:第3活用第2形動詞accipio, accipere, accepi, acceptum「受諾する,受容する,承知する,受け入れる」の接続法・能動相・過去完了・1人称・単数 atque:等位接続詞「〜と,そして」 ab:奪格支配の前置詞「〜から」.「彼から求める」→「彼に求める」 eo:3人称の人称代名詞の代わり使われる指示代名詞is, ea, id「彼,彼女,それ」(物でも男性名詞は男性形,女性名詞は女性形で受ける)の男性・単数・奪格(ここではハミルカルを指す) petere:第3活用・第1形動詞peto, petere, petivi (petii), petitum「求める,要求する」の不定法・能動相・現在 coepissem:主として完了系が用いられる第3活用第2形動詞 (coepio), (coepere), coepi, coeptum「〜し始める」(不定法を支配) ne:「〜しないように」という目的文を導く従属接続詞(従属文の動詞は接続法) dubitaret:第1活用動詞dubit-o, -are, -avi, -atum「疑う,ためらう,躊躇する」の接続法・能動相・未完了過去・3人称・単数(主語はハミルカル) ducere:第3活用・第1形動詞duco, ducere, duxi, ductum「導く,連れて行く」の不定法・能動相・現在 tum:接続詞cumと対応して「〜する(した)時,その時」,「〜した後,それから」を意味する副詞(英語のthen) ille:指示代名詞ille, illa, illud「あれ,あの」の男性・単数・主格.ここでは「あの人」=「彼」はハミルカル faciam:第3活用第1形動詞facio, facere, feci, factum「する,作る」の直説法・能動相・未来・1人称・単数(接続法・能動相・現在・1人称・単数と同形).直接話法なので主語は「私=ハミルカル」 inquit:殆ど直説法・現在の形のみ用いられる不完全動詞inquam「言う」(inquam / inquis / inquit / inquimus / inquitis / inquiunt)の3人称・単数.この動詞は現代風のテクストでは引用符で囲われた「直接話法」の部分を導く「地の文」の動詞(主語はハミルカル.現在形は「歴史的現在」と考える) si:条件文を導く従位接続詞.ここでは動詞は直説法・未来完了(接続法・完了と同形だが可能性を想像しているのでも,非現実的でもないので直説法と考える) mihi:人称代名詞ego「私」の与格 fidem:第5変化・女性名詞fides, fidei, f.「信義,信頼,信用,約束,誓約」の単数・対格 quam:関係代名詞qui, quae, quodの女性・単数・対格.先行詞は「約束」 postulo:第1活用動詞postul-a, -are, -avi, -atum「要求する,求める」の直説法・能動相・現在・1人称・単数.「(今,私が)求めている(現在)約束をお前がしてくれた(未来完了)その時には,私はそうするだろう(未来)」 dederis:第1活用に準ずる不規則動詞do, dare, dedi, datum「与える,(約束,誓約を)する」の直説法・能動相・未来完了・2人称・単数 |
(第3文) simul:副詞「同時に」 me:人称代名詞ego「私」の対格 ad:対格支配の前置詞「〜(の所)へと」 aram:第1変化・女性名詞ar-a, -ae, f.「祭壇」の単数・対格 adduxit:第3活用第1形動詞adduco, adducere, adduxi, adductum「(〜へと)連れて行く,導く」の直説法・能動相・完了・3人称・単数(主語はハミルカル) apud:対格支配の前置詞「〜の所で」 quam:関係代名詞の女性・単数・対格.先行詞は「祭壇」 sacrificare:第1活用動詞sacrific-o, -are, -avi, -atum「犠牲を捧げる」の不定法・能動相・現在 instituerat:第3活用第1形動詞instituo, instituere, institui, institutum「固定する,設置する,建設する,開始する,決定する,導入する,指示する,教える」の直説法・能動相・過去完了・3人称・単数(主語はハミルカル) eamque:指示代名詞ia, ea, id「それ,その」の女性・単数・対格+等位接続詞-que「〜と,そして」.「それ」は祭壇を指す ceteris:第1・第2変化形容詞ceter-us, -a, -um「その他の」の男性・複数・奪格(名詞化して「その他の者たち」) remotis:第2活用動詞removeo, removere, removi, remotum「動かす,離す,遠ざける」の完了分詞・男性・複数・奪格.「その他の者たち」とともに絶対奪格を構成し,「他の者たちが遠ざけられて」,「他の者たちを遠ざけて」という副詞句を形成している tenentem:第2活用動詞teneo, tenere, tenui, (tentum)「保つ,保持する,抱く」の現在分詞・男性・単数・対格.後出の同語から類推されるが,省略されている対格の人称代名詞「私」(ハンニバル)(不定法「誓う」の主語:対格+不定法構文)に一致(副詞的同格) iurare:第1活用動詞iur-o, -are, -avi, -atum「誓う」の不定法・能動相・現在 iussit:第2活用動詞iubeo, iubere, iussi, iussum「命じる」の直説法・能動相・完了・3人称・単数(主語はハミルカル) numquam:副詞「決して〜しない」.不定法foreを修飾 me:人称代名詞ego「私」(ハンニバル)の対格.不定法foreの主語(対格+不定法構文)(iurareの主語を兼ねているか,ここからiurareの主語も「私」であることを類推させるかどちらか) in:奪格支配の前置詞「〜(の中)に」 amicitia:第1変化・女性名詞amiciti-a, -ae, f.「友情,友愛,友好」の単数・奪格 cum:奪格支配の前置詞「〜とともに」 Romanis:第1・第2変化形容詞Roman-us, -a, -um「ローマの」の男性・複数・奪格(名詞化して「ローマ人」) fore:不規則動詞sum, esse, fui, futurus「〜がある,〜である」(英語のbe動詞)の不定法・能動相・未来(通常,不定法・未来はesse+未来分詞で表されるが,sum動詞にはこの形が存在する) |
(試訳) (2. 4.) この神事が行われている間に,父は私に自分と出陣する気持ちがあるかと尋ねた.私が喜んでその申し出を受け入れ,連れて行くことを躊躇しないようにと懇願し始めると,父は,『もしおまえがわたしの求める誓約をするなら,そうしよう』,と言った.そう言うと同時に,私を祭壇の所へ連れて行き,そこで犠牲を捧げることを指示し,他の者たちを退がらせて,祭壇にすがって誓いをたてるように私に命じた.ローマ人と友誼を結ぶことは金輪際ない,と. |