ネポス『ディオン伝』講読3 |
(テクスト) (1.3.) Erat intimus Dionysio priori, neque minus propter mores quam adfinitatem. Namque etsi Dionysii crudelitas ei displicebat, tamen salvum propter necessitudinem, magis etiam suorum causa studebat. Aderat in magnis rebus, eiusque consilio multum movebatur tyrannus, nisi qua in re maior ipsius cupiditas intercesserat. |
(語彙) (1.3.) 第1文 erat:不規則動詞sum, esse, fui, (futurus)「〜がある,いる,〜である」の直説法・能動相・未完了過去・3人称・単数.主語はディオン intimus:第1・第2変化形容詞intim-us, -a, -um「親しい,親密な」の男性・単数・主格 Dionysio:第2変化・男性名詞Dionysi-us, -i, m.「(シチリア島の都市国家シュラクサエ/シュラークサーエ/Gk.シュラークーサイの僭主)ディオニュシウス(ディオニューシウス.Gk.ディオニューシオス)」の単数・与格 priori:比較級の形容詞prior, prius「より先の,前の」の男性・単数・与格.「より先のディオニュシウス」は二代の僭主が同名なので父である「ディオニュシウス1世」を指す neque:接続詞「そして〜でない」 minus:第1・第2変化形容詞parv-us, -a, -um「小さい」の比較級minor, minus「より小さい」の中性・単数・対格が副詞化して,接続詞quamと連動し英語のless....thanの意味になる,この場合さらに否定語が前にあるので,not less....thanにあたる.したかって意味としては「quam以下に劣らないほど〜」 propter:対格支配の前置詞「〜ゆえに,〜のために」 mores:第3変化・男性名詞mos. moris, m.「習慣,性質,性格,風習,(複数で)態度,姿勢」の複数・対格 quam:接続詞「〜よりも」 adfinitatem:第3変化・女性名詞adfinitas, adfinitatis, f.「(特に婚姻による)親戚関係,姻戚関係」(英語のaffinityの語源)の単数・対格 |
(1.3.)第2文 namque:接続詞「と言うのも」 etsi:仮定文を導く接続詞「たとえ〜だとしても」 Dionysii:第2変化・男性名詞Dionysi-us, -i, m.「(シチリア島の都市国家シュラクサエ/シュラークサーエ/Gk.シュラークーサイの僭主)ディオニュシウス(ディオニューシウス.Gk.ディオニューシオス)」の単数・属格 crudelitas:第3変化・女性名詞crdelitas, crudelitatis, f.「残酷さ,残虐性」の単数・主格 ei:3人称の人称代名詞に代用される指示代名詞is, ea, id「それ,その」の男性・単数・与格(三性同形).ディオンを指す displicebat:第2活用動詞displiceo, displicere, displicui, displicitum「・・が〜に不愉快である,気に入らない」の直説法・能動相・現在・3人称・単数 tamen:接続詞「しかし,一方」 salvum:第1第2変化形容詞salv-is, -a, -um「安全な,無事の」の男性・単数・対格.se esseを補って「自分が無事であること」に「熱心だった」(動詞studebat)と考える propter:対格支配の前置詞「〜ゆえに,〜のために」 necessitudinem:第3変化・女性名詞necessitudo, necessitudinis, f.「必要,必然,欠如,関係,友好,(主として複数で)親類」の単数・対格 magis:副詞「より多く,一層」 etiam:副詞「〜すら,また,更に,一層」.magis etiamは英語のstill more「さらに一層」と考えれば良いが,その場合magisがmore,etiamがstillと考えて良いだろう suorum:再帰代名詞の所有形容詞su-us, -a, -um「(主語と同じ)自身の」の男性・複数・属格で,この所有形容詞の 男性・複数形は名詞化して「自分に関係する者たち,家族,一族,部下,郎党,仲間,兵士,手下」と言った多様な意味になる.ここでは「家族」であろう causa:第1変化・女性名詞caus-a, -ae, f.「理由,原因,根拠」の単数・奪格形が副詞化して,さらにそれが属格を取って,あたかも属格支配の前置詞(ラテン語の前置詞は対格か奪格しか支配しない)のように「〜の理由で」となる.ここではsuorum causaは前出のpropter necessitudinemと,理由を表すフレイズ同士が対照されている studebat:第2活用動詞studeo, studere, studui, -「〜に(与格)熱心である,〜しようと(不定法)努める」の直説法・能動相・未完了過去・3人称・単数 |
(1.3.)第3文 aderat:不規則動詞adsum, adesse, adfui, -「(その場に)居合わせる,立ち会う,助勢する」の直説法・能動相・未完了過去・3人称・単数 in:奪格支配の前置詞「〜において,〜の中で」 magnis:第1・第2変化形容詞magn-us, -a, -um「大きな,偉大な,重要な」の女性・複数・奪格 rebus:第5変化・女性名詞res, rei, f.「事,物」の複数・奪格.「大きな事」→「国家の大事(など)」 eiusque:3人称の人称代名詞として代用される指示代名詞is, ea, id「それ,その」の男性・単数・属格(三性同形)+接続詞-que「〜と,そして」.「彼」はディオンを指す consilio:第2変化・中性名詞consili-um, -i, n.「計画,考え,助言」の単数・奪格 multum:第1・第2変化形容詞mult-us, -a, -um「多くの,多数の,多量の」の中性・単数・対格が副詞化して「大いに,大層,大変」 movebatur:第2活用動詞moveo, movere, movi, motum「動かす,影響を与える」の直説法・受動相・未完了過去・3人称・単数 tyrannus:第2変化・男性名詞tyrann-us, -i, n.「僭主」の単数・主格 nisi:接続詞「もし〜でなければ」 qua:関係形容詞の女性・単数・奪格 in:奪格支配の前置詞「〜において,〜の中で」 re:第5変化・女性名詞res, rei, f.「事,物」の単数・奪格 maior:第1・第2変化形容詞magn-us, -a, -um「大きな,偉大な,重要な」の比較級maior, maius「より大きな」の男性・単数・主格.「欲求」の説明的同格で「より大きな物として」→「より大きく」 ipsius:指示代名詞ipse, ipsa, ipsum「自身(の)」の男性・単数・属格(三性同形) cupiditas:第3変化・女性名詞cupiditas, cupiditatis, f.「欲望,欲求」の単数・主格 intercesserat:第3活用・第1形動詞intercedo, itercedere, intercessi, intercessum「〜の間に進む,現れる,介入する,介在する」の直説法・能動相・過去完了・3人称・単数.客観的事実を述べているので直説法の仮定文になっている |
(試訳) (1.3.)彼はディオニュシオス1世と親密だったが,それは親戚関係のせいばかりでなく,彼の性格にもよっていた.と言うのも,たとえディオニュシオスの残酷さがディオンにとって不愉快なものであっても,彼はディオニュシオスとの関係ゆえに,さらには自分の家族のために自分の身を安全にしておきたかったのだ.彼は国家の大事に関わり,僭主も自身の欲求がより大きな力で介在しなければ,ディオンの助言に大いに影響されていた. |