『ガリア戦記』(1.5.3)

(テクスト)

(1.5.3) Persuadent Rauracis et Tulingis et Latobrigis finitimis suis, uti eodem usi consilio oppidis suis vicisque exustis una cum eis proficiscantur, Boiosque, qui trans Rhenum incoluerant et in agrum Noricum transierant Noreiamque oppugnarant, receptos ad se socios sibi adciscunt.

(読み)

(1.5.2)ペルスーデント・ラウーキース・ト・トゥンギース・ト・ラートーブーギース・フィーティミース・イース,ト・エーデム・ーシー・コンリオー・ッピディース・イース・ウィーースクェ・エクースティース・ーナー・ム・イース・プロフィキスントゥル,ボイースクェ,クー・トーンス・ーヌム・インコエラント・ト・ン・グルム・ーリクム・トラーンエラント・ノーレイムクェ・オップーグーラント,レプトース・ド・ー・キオース・ビ(ー)・アドスクント.

(部族名など固有名詞の長短に関しては訂正の可能性)
(語彙)

(1.5.3)

 Persuadent:第2活用動詞persuadeo, persuadere, persuasi, persuasum「(与格支配)〜を(与格)説得する」の直説法・能動相・現在・3人称・複数
 Rauracis:複数で使われる第2変化・男性名詞(元来は形容詞)Raurac-i, -orum, m.pl「ラウラキー(ラウラーキー)族」の複数・与格.イーワン注解版(Colin Ewan, ed., Caesar: De Bello Gallico, Bell & Hyman, 1957)にはRauricisとあるが,他の版も参照してこのページで底本にしているロウブ叢書に従う.ラウラキー族はレーヌス(ライン)河畔のバシレア(現在のバーゼル)付近にいた部族
 Tulingis:複数で使われる第2変化・男性名詞(元来は形容詞)Tungl-i, -orum, m.pl.「トゥングリー族」の複数・与格.ライン河上流に住んでいた部族だが,ゲルマン人かケルト人かわからない
 Latobrigis:複数で使われる第2変化・男性名詞(元来は形容詞)Latobrig-i, -orum, m.pl.「ラトブリギー(ラートーブリギー)族」の複数・与格.イーワン版ではLatovicis(ラートーウィーキー族),ベル・レットル版(L..-A. Constans, ed., Cesar: Guerre de Gaules, 1926)(フランス語のアクサンは表記していない)ではLatobicis(ラートービキー族)とあるが,ロウブ叢書に従う.現在のスイス,オーストリア国境付近にいたケルト系の部族と考えられる
 uti:目的・結果を意味する従属文を導く接続詞(=ut)
 eodem:不定形容詞idem, eadem, idem「同じ」の中性・単数・奪格
 usi:第3活用第1形の形式受動相動詞utor, uti, usus sum「(奪格支配)〜を(奪格)用いる,使う」の完了分詞・男性・複数・主格.意味は能動なので,現在分詞と同じように「〜しながら,〜して」と考える
 consilio:第2変化・中性名詞consili-umm -i, n.「考え,計画,戦略,政策」の単数・奪格
 oppidis:第2変化・中性名詞oppid-um ,-i, n「城砦,都市,防衛拠点,基地」の複数・奪格.「絶対奪格」の一部
 suis:再帰代名詞の所有形容詞su-us, -a, -um「(主語と同じ)自分自身の」の中性・複数・奪格
 vicis・第2変化・男性名詞vic-us, -i, m.「村」の複数・奪格+接続詞-que「〜と,そして」.「絶対奪格」の一部
 exustis:第3活用第1形動詞exuro, exurere, exussi, exustum「焼く,焼き尽くす」の完了分詞・男性・複数・奪格(修飾されている語は中性と男性だが,こういう場合は男性に合わせる.奪格は男性と中性は同形なので実際は目に見えない問題だが).いわゆる「絶対奪格」で,「自身の防衛拠点と村々が焼かれて」は主語の立場からは「〜を焼いて」となる
 una:副詞「一緒に」
 cum:奪格支配の前置詞「〜と(ともに)」
 eis:人称代名詞の代わりに使われる指示代名詞is, ea, id「それ,その」の男性・複数・奪格.「彼ら」は上にヘルウェティイー族を指す
 proficiscantur:第3活用第1形の形式受動相動詞proficiscor, proficisci, profectus sum「出発する」の接続法・受動相(意味は能動)・3人称・複数.接続法・現在は目的を意味する従属文なの接続法となり,主動詞が現在なので,接続法・現在は主動詞に対して「同時」または「以後」を意味する.ただし,主動詞は「現在」でも「歴史的現在」で実際には過去の意味なので,従属文で「同時」または「以後」を意味する場合,接続法・未完了過去も可能なはず
 Boiosque:複数で使われる第2変化・男性名詞(元来は形容詞)Boi-i, -orum, m.pl.「ボイイー族」の複数・対格+接続詞-que「〜と,そして」.ボイイー族はガリア中央部から諸方に移住し,一部はイタリア北部や東方(ボヘミアという地名を残した)に定住した.東方にいたボイイー族が,現在のルーマニアにいたダキア人に圧迫されてヘルウェティイー族の移動に合流した
 qui:関係代名詞qui, quae, quodの男性・複数・主格.先行詞はボイイー族
 trans:対格支配の前置詞「〜を越えて,〜の向こうに」
 Rhenum:第2変化・男性名詞Rhen-us, -i, m.「レーヌス河(現在のライン河)」の単数・対格
 incoluerant:第3活用第1形動詞incolo, incolere, incolui, incultum「住む,定住する」の直説法・能動相・過去完了・3人称・複数.主動詞は「現在」だが,「歴史的現在」で実際の意味は過去なので,主動詞に対して「以前」の「大過去」を意味する過去完了が使われている
 et:接続詞「〜と,そして」
 in:対格支配の前置詞「〜へと」
 agrum:第2変化・男性名詞ager, agri, m.「畑,野,土地」の単数・対格
 Noricum:第2変化・中性名詞Noric-um, -i, n.「ノリクム(地方)」の単数・対格.ノリクムは現在のオーストリアの一部でウィンドボナ(現在の現在のヴィーン)とアルプス山脈の間の地方.後にローマの属州となるが,当時は違う
 transierant:不規則動詞transeo, transire, transivi, transitum「越えていく,移住する」の直説法・能動相・過去完了・3人称・複数(=transiverant)
 Noreiamque:第1変化・女性名詞Norei-a, -ae, f.「(ノリクム地方の都市)ノレイア」の単数・対格+接続詞-que「〜と,そして」
 oppugnarant:第1活用動詞oppugn-o, -are, -avi, -atum「攻撃する」の直説法・能動相・過去完了・3人称・複数(= oppugnaverant)
 receptos:第3活用第2形動詞recipio, recipere, recepi, recrtum「受け取る,受け入れる」の完了分詞・男性・複数・対格
 ad:対格支配の前置詞「〜へと」
 se:再帰代名詞se(主格がないので対格が代表形)「(主語と同じ)自分自身」の男性(三性共通)・複数(単・複同形)・対格.ヘルウェティイー族を指す
 socios:第2変化soci-us, -i, m.「仲間,同盟者」の複数・対格
 sibi:再帰代名詞se(主格がないので対格が代表形)「(主語と同じ)自分自身」の男性(三性共通)・複数(単・複同形)・与格.ヘルウェティイー族を指す
 adsciscunt:第3活用第1形動詞adscisco, adsciscere, adscivi, adscitum「認める,受け入れる」の直説法・能動相・現在・3人称・複数

(試訳)

 (1.5.3) 彼ら(ヘルウェティイー族)はラウラキー族,トゥングリー族,ラトブリギー族に,(ヘルウェティイー族と)同じ考えで自分たちの防衛拠点と村々を焼き尽くして,彼ら(ヘルウェティイー族)とともに出発するよう説得し,かつてはライン河の向こうに定住していたが,ノリクム地方へと移住し,ノレイアを攻撃したボイイー族を,自分たち(ヘルウェティイー族)にとって自分たちのもとへと受け入れる仲間として受容した.