『ガリア戦記』(1.3.5)

(テクスト)

(1.3.5) Perfacile factu esse illis probat conata perficere, propterea quod ipse suae civitatis imperium obtenturus esset: non esse dubium, quin totius Galliae plurimum Hevetii possent; se suis copiis suoque exercitu illis regna conciliaturum confirmat .

(読み)

ペルファキレ・ファクトゥー・ッセ・ッリース・プバト・コーータ・ペルフィケレ,プロプレアー・クド・プセ・アエ・キーウィーティス・インリウム・オプテントゥールス・ッセト:ーン・ッセ・ドゥビウム,クーン・トーティーウス・ッリアエ・プーリムム・ヘルウェーティイー・ッセント;ー・イース・ーピイース・スークェ・エクルキトゥー・ッリース・グナ・コンキリアートゥールム・コンフィルマト.

(語彙)

(1.3.5)(コロン,セミコロンでも文を区切る)

第1文

 perfacile:第3変化形容詞perfacil-is, -e「(非常に)簡単な,容易な」の中性・単数・対格.「対格+不定法」構文の主語「完遂すること」の同格補語(平叙文なら主格補語になるはず)
 factu:第3活用第2形動詞facio, facere, feci, fatutum「する,なす,作る」の目的分詞(スピーヌム)第2形(形容詞と副詞を修飾する形).直前の形容詞を修飾し「成すに容易」→「成すのが容易」
 esse:不規則動詞sum, esse, fui, (futurus)「〜がある,いる,〜である」の不定法・能動相・現在.「対格+不定法」構文の核となる不定法で,不定法構文全体で「証明する」内容になっている
 illis:指示代名詞ille, illa, illud「あれ,あの,かの」の男性・複数・与格.ここでは「彼ら」でカスティクスとドゥムノリクスを指す
 probat:第1活用動詞prob-o, -are, -avi, -atum「証明する,はっきり示す」の直説法・能動相・現在
 propterea quod:この二語で接続詞を構成し「quod以下の理由で,だから」
 ipse:指示代名詞ipse, ipsa, ipsum「〜自身,まさにその,それ自体」の男性・単数・主格.ここでは「オルゲトリクス本人」を指す
 suae:再帰代名詞(その文の主語と同じ人,物を指す)の所有形容詞「自分の」の女性・単数・属格
 civitatis:第3変化・女性名詞civitas, civitatis, f.「都市,(ゲルマン人,ケルト人などの)部族国家」
 imperium:第2変化・中性名詞imperi-um, -i, n.「支配権」の単数・対格
 obtenturus:第2活用動詞obtineo, obtinere, obtinui, obtentum「得る,獲得する」の未来分詞・男性・単数・主格.+sum動詞で「回説的(periphrastic)未来」(未来形の代用)を表す.接続法には未来形はないので,動詞が接続法になる従属文では,主動詞に対して「以後」を表す場合には接続法・現在を使うが,特に「以後」を強調する場合に「回説的未来」を用いる
 esset:不規則動詞sum, esse, fui, (futurus)「〜がある,いる,〜である」の接続法・能動相・未完了過去・3人称・単数.上の説明参照


第2文

 non:否定の副詞「〜でない」
 esse:不規則動詞sum, esse, fui, (futurus)「〜がある,いる,〜である」の不定法・能動相・現在.ここでは前の文の「はっきり示す」内容.平叙文の間接話法は「対格+不定法」構文で示す
 dubium:第1・第2変化形容詞dubi-us, -a, um「疑わしい」の中性・単数・対格
 quin:従属文(動詞は接続法)の内容を否定する接続詞だが,この場合のように「疑惑,疑念」をあらわす主文に対して,その疑惑や疑念の内容を導く.たとえば主動詞が「疑う」の時は「〜ではないかと疑う」→「〜であることを疑う」となる.ここでは全体として「〜であることは疑いない」という意味になる
 totius:代名詞型変化をする第1・第2へんか形容詞tot-us, -a, -um「全体の,全ての」の女性・単数・属格(単数の属格と与格は三性共通だが,修飾している「ガリア」が女性名詞なので女性)
 Galliae:第1変化・女性名詞Galli-a, -ae, f.「ガリア」の単数・属格
 plurimum:第1・第2変化形容詞mult-us, -a, -um「多くの,多数の,多量の」の最上級plurim-us, -a, -um「最多の,殆どの」の中性・単数・対格が副詞化して「最も」の意味
 Helvetii:複数で用いられる第2変化・男性名詞(元来は形容詞)Helveti-i, -orum, m.pl.「ヘルウェティイー族」の複数・主格
 possent:不規則動詞possum, posse, posui, -「(不定法を支配して)〜できる,有力である,勢力がある」の接続法・能動相・未完了過去・3人称・複数

第3文

 se:再帰代名詞の男性(三性共通)・単数(単複同形)・対格.不定法esseが省略されているが,後で対格形の未来分詞が出てくるので,「sum動詞(の不定法)+未来分詞(の対格)」で「回説的未来」を意味する「対格+不定法」構文の意味上の主語.オルゲトリクスを指す
 suis:再帰代名詞の所有形容詞su-us, -a, um「その人(物)自身の」の女性・複数・奪格
 copiis:通常複数で用いられる第1変化・女性名詞copi-ae, -arum, f.pl.「財産,軍勢」の複数・奪格
 suoque:再帰代名詞の所有形容詞su-us, -a, um「その人(物)自身の」の男性・単数・奪格+接続詞-que「〜と,そして」
 exercitu:第4変化・男性名詞exercit-us, -us, m.「軍隊」の単数・奪格
 illis:指示代名詞ille, illa, illud「あれ,あの,かの」の男性・複数・与格.ここでは「彼ら」でカスティクスとドゥムノリクスを指す
 regna:第2変化・中性名詞regn-um, -i, n.「王権,王座,支配権」の複数・対格
 conciliaturum:第1活用動詞concili-o, -are, -avi, -atum「勝ち取る,手に入れてやる」の未来分詞・男性・単数・対格.省略されているsum動詞の不定法とともに「回説的未来」の「対格+不定法」構文を構成
 confirmat:第1活用動詞confirm-o, -are, -avi, -atum「確かにする,確約する,宣言する」の直説法・能動相・現在・3人称・単数.主語はオルゲトリクス

(試訳)

 オルゲトリクス自身が自国の支配権を獲得するであろうから,それらの試みを完遂することは成し遂げるのが極めて容易であることを彼ら(カスティクスとドゥムノリクス)に示した.ヘルウェティイー族が全ガリアで最も勢力があるのは疑いがない(と彼は言った).自分は自らの財産と軍隊で彼らに支配権を獲得してやることを確約した.