『ガリア戦記』(1.3.4)

(テクスト)

(1.3.4) In eo itinere persuadet Castico, Catamantaloedis filio, Sequano, cuius pater regnum in Sequanis multos annos obtinuerat et a senatu populi Romani amucus appellatus erat, ut regnum in civitate sua occuparet, quod pater ante habuerat; itemque Dumnorigi Aeduo, fratri Diviciaci, qui eo tempore principatum in civitate obtinebat ac maxime plebi acceptus erat, ut idem conaretur persuadet eique filiam suam in matrimonium dat.

(読み)

ン・オー・ペルスーデト・スティコー,カタマンターロエディース・フィーリオー,ークァノー,ーユス・テル・グヌム・ン・ークァニース・ルトース・ンノース・オプティエラト・ト・ー・セートゥー・プリー・ローーニー・アークス・アッペッートゥス・ラト,ト・グヌム・ン・キーウィーテ・アー・オックーレト,クド・テル・ンテ・ハエラト;イムクェ・ドムーリギー・アエドゥオー,フートリー・ディーウィキーキー,クー・オー・ンポレ・プリンキートゥム・ン・キーウィーテ・オプティーバト・ク・クシメー・プービー・アップトゥス・ラト,ト・デム・コーナーートゥル・ペルスーデト・エークェ・フィーリアム・アム・イン・マートリーニウム・ト.

(語彙)

(1.3.4)(セミコロンで二文に分ける)

第1文

 in:奪格支配の前置詞「〜において」
 eo:形容詞的にも使われる指示代名詞is, ea, id「それ,その」の中性・単数・奪格
 itinere:第3変化・中性名詞iter, itineris, n.「道,旅」の単数・奪格
 persuadet:与格支配の第2活用動詞persuadeo, persuadere, persuasi, persuasum「(〜を:与格)説得する」の直説法・能動相・現在・3人称・単数
 Castico:第2変化・男性名詞Castic-us, -i, m.「(セクァニー族の貴族)カスティクス」の単数・与格
 Catamantaloedis:第3変化・男性名詞Catamantaloedes, Catamantaloedis, m.「(カスティクスの父で,長年セクァニー族の族長を務めた)カタマンタロエデス(カタマンターロエデス)」の単数・属格
 filio:第2変化・男性名詞fili-us, -i, m.「息子」の単数・与格
 Sequano:第1・第2変化形容詞Sequan-us, -a, -um「セクァニー族の」の男性・単数・与格.ここでは「セクァニー人」という名詞として使われていると考えても良い
 cuius:関係代名詞qui, quae, quodの三性共通の単数・属格・ここでは先行詞はカスティクスなので男性
 pater:第3変化・男性名詞pater, patris, m.「父」の単数・主格
 regnum:第2変化・中性名詞regn-um, -i, n.「王権,王座,支配権,統治」の単数・対格
 in:奪格支配の前置詞「〜において」
 Sequanis:第1・第2変化形容詞Sequan-us, -a, -um「セクァニー族の」の男性・複数・奪格.男性・複数形は名詞として「セクァニー族」
 multos:第1・第2変化形容詞mult-us, -a, um「多くの,多数の,大量の」の男性・複数・対格
 annos:第2変化・男性名詞ann-us, -i, m.「年」の複数・対格.いわゆる「延長の対格」で期間や距離などを表す・ここでは「長年(の間),長年に渡って」
 obtinuerat:第3活用第1形動詞obtineo, obtinere, obtinui, obtentum「得る,獲得する」の直説法・能動相・過去完了・3人称・単数.地の文の動詞は現在であるが,これは歴史的現在で過去の意味をあらわすので,それ以前の大過去を意味する過去完了が使われている
 et:接続詞「〜と,そして」
 a:奪格支配の前置詞「〜から,〜によって」
 senatu:第4変化・男性名詞senat-us, -us, m.「元老院,長老会」の単数・奪格
 populi:第2変化・男性名詞popul-us, -i, m.「国民,人々」の単数・属格
 Romani:第1・第2変化形容詞Roman-us, -a, -um「ローマの」の男性・単数・属格
 amicus:第2変化・男性名詞amic-us, -i, m.「友,友人」の男性・単数・主格.関係文の主語「カスティクスの父」の主格補語
 appellatus:第1活用動詞appell-o, -are, -avi, -atus「〜を・・と呼ぶ,称する」の完了分詞・男性・単数・主格.次のeratとともに,この動詞の直説法・受動相・過去完了・3人称・単数を構成
 erat:不規則動詞sum, esse, fui, (futurus)「〜がある,いる,〜である」の直説法・能動相・未完了過去・3人称・単数.完了分詞とともに,受動相・過去完了を構成
 ut:動詞が接続法となり,目的や結果を意味する従属文を導く接続詞.ここでは主動詞「説得する」の内容を構成
 regnum:第2変化・中性名詞regn-um, -i, n.「王権,王座,支配権,統治」の単数・対格
 in:奪格支配の前置詞「〜において」
 civitate:第3変化・女性名詞civitas, civitatis, f.「都市,(ケルト人やゲルマン人の)部族国家」の単数・奪格
 sua:再帰代名詞の所有形容詞「(その文の動詞の主語と同じ)その人自身の」(主動詞の主語も,従属文の主語も受けることができる.ここでは従属文の主語カスティクスを受ける)の女性・単数・奪格
 occuparet:第1活用動詞occup-o, -are, -avi, -atum「占領する,占める」の接続法・能動相・未完了過去・3人称・単数.主語はカスティクス.主動詞は現在だが,歴史的現在は副時称(過去時称)と考えられるので,目的文中で主動詞に対して「同時または以後」を表す場合は接続法の動詞は未完了過去に置かれる
 quod:関係代名詞qui, quae, quodの中性・単数・対格.先行詞は「支配権」.この関係文は「理由」と考えても良い
 pater:第3変化・男性名詞pater, patris, m.「父」の単数・主格.ここではカスティクスの父カタマンタロエデス
 ante:副詞「以前」
 habuerat:第2活用動詞habeo, habere, habui, habitum「持つ」の直説法・能動相・過去完了・3人称・単数

第2文

 itemque:副詞item「同様に,更に」+接続詞-que「〜と,そして」
 Dumnorigi:第3変化・男性名詞Dumnorix, Dumnorigis, m.「(アエドゥイー族の貴族)ドゥムノリクス」の単数・与格.与格は後出の動詞「説得する」に支配されている
 Aeduo:第1・第2変化形容詞Aedu-us, -a, -um「アエドゥイー族の」の単数・与格.「(一人の男性の)アエドゥイー人」という名詞と考えても良い
 fratri:第3変化・男性名詞frater, fratris, m.「兄弟」(ここでは「弟」であるらしい)の単数・与格.ドゥムノリクスの説明的同格
 Diviciaci:第2変化・男性名詞Diviciac-us, -i, m.「(終始ローマに忠実だったアエドゥイー族の指導者で,ドルイド聖職者)ディウィキアクス(ディーウィキアークス)」の単数・属格
 qui:関係代名詞qui, quae, quodの男性・単数・主格.先行詞はディウィキアクス
 eo:形容詞的にも使われる指示代名詞is, ea, id「それ,その」の中性・単数・奪格
 tempore:第3変化・中性名詞tempus, temporis, n.「時,時代」の単数・奪格.「その時,当時」(前置詞なしで「時」を示す)
 principatum:第4変化・男性名詞principat-us, -us, m.「第1人者の地位,指導者の地位」の単数・対格
 obtinebat:第3活用第1形動詞obtineo, obtinere, obtinui, obtentum「得る,獲得する」の直説法・能動相・未完了過去・3人称・単数
 ac:接続詞「〜と,そして」
 maxime:副詞「最も(多く)」
 plebi:第3変化・女性名詞plebs, plebis, f.「平民,庶民,民衆」の単数・与格
 acceptus:第3変化・第1形動詞accipio, accipere, accepi, acceptum「受け入れる」の完了分詞・男性・単数・主格.続くeratとともに受動相・過去完了を構成
 erat:不規則動詞sum, esse, fui, (futurus)「〜がある,いる,〜である」の直説法・能動相・未完了過去・3人称・単数.直前の完了分詞とともに受動相・過去完了を構成
 ut:動詞が接続法となり,目的や結果を意味する従属文を導く接続詞.ここでは主動詞「説得する」の内容を構成
 idem:不定代名詞idem, eadem, idem(-demの部分は不変化.-demの前の部分がis, ea, idに準じて変化)「その同じ,同じ人,同じ者,同じ事」の中性・単数・対格で,「同じ事」(自国の支配権を得ようとすること)
 conaretur:第1活用の形式受動相動詞conor, conari, conatus sum「(〜しようと)試みる,努力する」の接続法・受動相(意味は能動)・未完了過去・3人称・単数.主語はドゥムノリクス.主動詞は現在だが,歴史的現在は副時称(過去時称)と考えられるので,目的文中で主動詞に対して「同時または以後」を表す場合は接続法の動詞は未完了過去に置かれる
 persuadet:与格支配の第2活用動詞persuadeo, persuadere, persuasi, persuasum「(〜を:与格)説得する」の直説法・能動相・現在・3人称・単数
 eique:3人称の人称代名詞の代わりに使われる指示代名詞is, ea, id「それ,その」の三性共通の与格(ここではドゥムノリクスを指すので男性)+接続詞-que「〜と,そして」
 filiam:第1変化・女性名詞fili-a, -ae, f.「娘」の単数・対格
 suam:再帰代名詞の所有形容詞「(その文の動詞の主語と同じ)その人自身の,自分の」(主動詞の主語も,従属文の主語も受けることができる.ここでは主文の主語オルゲトリクスを受ける)の女性・単数・対格
 in:対格支配の前置詞「〜へと」
 matrimonium:第2変化・中性名詞matrimoni-um, -i, n.「結婚」の単数・対格.「結婚へと与える」は「娶らせる,娶せる」
 dat:第1活用に準ずる不規則動詞do, dare, dedi, datum「与える」の直説法・能動相・現在・3人称・単数.主語はオルゲトリクス

(試訳)

 この途中で,彼(オルゲトリクス)はカタマンタロエデスの息子でセクァニー人のカスティクスを説得した.カスティクスの父はセクァニー族の所で長年に渡り支配権を握っていて,(ローマ)元老院から「ローマ国民の友」と呼ばれていたが,カスティクスも父が以前持っていた支配権を自国においてつかみ取るようにと説得したのだ.アエドゥイー族のドゥムノリクスも同様に説得した.ドゥムノリクスは,当時自国において指導者の地位を占め,民衆に最も受け入れられていたディウィキアクスの弟だが,そのドゥムノリクスにカスティクス同様のことを試みるように説得し,彼に自分の娘を娶らせた.