『ガリア戦記』(1.2.1-2) |
(テクスト) (1.2.1) Apud Helvetios longe nobilissimus fuit et ditissimus Orgetrix. Is M. Messalla et M. Pisone consulibus regni cupiditate inductus coniutrationem nobilitatis fecit et civitati persuasit, ut de finibus suis cum omnibus copiis exirent: (1.2.2)perfacile esse, cum virtute omnibus praestarent, totius Galliae imperio potiri.. |
(読み) (1.2.1)アプド・ヘルウェーティオース・ロンゲー・ノービリッシムス・ディーティッシムス・オルゲトリクス.イス・マールコー・メッサッラー・エト・マールコー・ピーソーネ・コーンスリブス・レーグニー・クピーディターテ・インドゥクトゥス・コーンユーラーティオーネム・ノービリターティス・フェーキト・エト・キーウィターティー・ペルスアーシト,ウト・デー・フィーニブス・スイース・クム・オムニブス・コーピイース・エクスィーレント.(12.2)ペルファキレ・エッセ,クム・ウィルトゥーテ・オムニブス・プラエスターレント,トーティーウス・ガッリアエ・インペリオー・ポティーリー. |
(語彙) (1.2.1) 第1文 apud:対格支配の前置詞「〜の所で(は),〜のもとで(は)」 Helvetios:複数で用いられる第2変化・男性名詞(元来は形容詞)Heveti-i, -orum, m.pl.「ヘルウェティイー(ヘルウェーティイー)族」の複数・対格 longe:副詞「遠くに,遙かに,際だって」 nobilissimus:第3変化形容詞nobilis, nobile「高貴な,良い家柄の」の最上級・男性・単数・主格 ditissimus:第3変化形容詞dis, ditis(単数・主格が三性共通なので名詞と同じく男性・単数・主格と属格を並記)「富んでいる,金持ちの,裕福な」(= dives, divitis)の最上級・男性・単数・主格 Orgetrix:第三変化・男性名詞(固有名詞)Orgetrix, Orgetricis, m..「オルゲトリクス」の単数・主格.英語のbe動詞のisにあたる形estが省略されていて,その主語 |
第2文 is:3人称の人称代名詞として代用される指示代名詞is, ea, id「それ,その」の男性・単数・主格.ここではオルゲトリクスを受けて「彼は」 M.:男性の個人名を表す第2変化・男性名詞Marc-us, -i, m.「マルクス(マールクス)」の省略形.ここでは組み合わされている家名メッサッラが奪格なので,個人名も奪格になる Messalla:第1変化・男性名詞Messall-a, -ae, m.「メッサッラ」(ローマ人の家名:ローマ人は基本的に「個人名(praenomen)+氏族名(nomen)+家名(cognomen)」の三つの組み合わせを使う.ただしここでは個人名+家名になっている)の単数・奪格 et:接続詞「〜と,そして」 M.:男性の個人名を表す第2変化・男性名詞Marc-us, -i, m.「マルクス(マールクス)」の省略形.ここでは組み合わされている家名ピーソーが奪格なので,個人名も奪格になる Pisone:第3変化・男性名詞Piso, Pisonis, m.「ピソー(ピーソー)」(家名)の単数・奪格.ローマの「年」の表し方はa.u.c.(ab urbe condita=「都市が建設されて以来」)として伝説上のローマ建国年である西暦紀元前753年から数えるか,任期一年で二人選出される執政官(コンスル)の組み合わせで表現するのが習慣(前509年に七代目の王タルクィニウス(タルクィーニウス)・スペルブスを追放したブルトゥス(ブルートゥス)とコッラティヌス(コッラーティーヌス)の二人が選出されて以来)で,その場合,二人の名前と「執政官」の複数形が奪格におかれる.したがって,ここでは「マルクス・メッサッラとマルクス・ピソーが執政官であった年に」という意味になる consulibus:第3変化・男性名詞consul, consulis, m.「執政官」の複数・奪格 regni:第2変化・中性名詞regn-um, -i, n.「王権,王座,王の地位,王としての支配(権)」の単数・属格 cupiditate:第3変化・女性名詞cupiditas, cupiditatis, f.「欲望,野望」の単数・属格.「王権への欲求によって導かれて」→「王権を欲して」 inductus:第3活用第1形動詞induco, inducere, induxi, inductum「導く,誘う」の完了分詞・男性・単数・主格.「彼」(=オルゲトリクス)の副詞的同格 conirationem:第3変化・女性名詞coniuratio, coniurationis, f.「陰謀,企て」の単数・対格 nobilitatis:第3変化・女性名詞nobilitas, nobilitatis, f.「高貴さ,(集合的に)貴族たち」の単数・属格 fecit:第3活用第1形動詞facio, facere, feci, factum「作る,なす,する」の直説法・能動相・完了・3人称・単数 et:接続詞「〜と,そして」 civitati:第3変化・女性名詞civitas, civitatis, f.「都市,国,(集合的に)市民たち,国民」の単数・与格 persuasit:第2活用動詞persuadeo, persuadere, persuasi, persuasum「(与格支配で)(〜に対して)説得する」の直説法・能動相・完了・3人称・単数 ut:動詞が接続法の従属文を導いて目的や結果を表す従属文をつくる接続詞.ここでは説得の内容を表す de:奪格支配の前置詞「〜から」 finibus:第3変化・男性(または女性)名詞fin-is, -is, m. (f.)「終わり,境界,(複数で)領土」の複数・奪格 suis:主動詞の主語と同じものを指す再帰所有形容詞su-us, -a, -um「自分自身の」の男性(または女性)・複数・奪格 cum:奪格支配の前置詞「〜とともに」 ominibus:第3変化形容詞omn-is, -e「全ての」の女性・複数・奪格 copiis:第1変化・女性名詞copi-a, -ae, f.「多量,豊かさ,富,(複数で)軍隊」の複数・奪格 |
(1.2.2) perfacile:第3変化形容詞perfacil-is, -e「極めて容易な」の中性・単数・対格.「対格+不定法」構文の主語である不定法「占領する」が対格と考えて,対格とする esse:不規則動詞sum, esse, fui, (futurus)「〜がある,〜である」の不定法・能動相・現在.「〜することは極めて容易である」の「である」が対格なのは,平叙文の間接話法の「対格+不定法」構文を取る,という原則による.間接話法になっているのは,前文の「説得した」の関連して,「〜と言って,説得した」の「〜と言って」が省略されている,と考える cum:動詞が接続法の従属文を導き,理由を表す接続詞 viritute:第3変化・女性名詞virtus, virtutis, f.「武勇,美徳」の単数・奪格.「武勇において,武勇によって」 omnibus:第3変化形容詞omon-is, -e「全ての」の男性・複数・与格.ここでは名詞化して「全ての者たち,全ての部族」の意味. praestarent:第1活用動詞praest-o, -are, -avi, -atum「〜より(与格)勝る,優れる」の接続法・能動相・未完了過去・3人称・複数.「彼ら(ヘルウェティイー族)は」は直接話法なら「お前たちは.あなた方は」になる totius:代名詞型の変化(単数の属格と与格がそれぞれ三性共通で他の名詞や形容詞には見られないタイプの変化をする)の第1・第2変化形容詞tot-us, -a, -um「全部の,全体の」の女性・単数・属格 Galliae:第1変化・女性名詞Galli-a, -ae, f.「ガリア」の単数・属格 imperio:第2変化・中性名詞imperi-um, -i, n.「支配権」の単数・奪格 potiri:第4活用の形式受動相動詞potior, potiri, potitus sum「〜を(奪格または属格)得る,手中に収める」の不定法・受動相(意味は能動)・現在.「対格+不定法」構文の不定法「〜である(こと)」の主語がまた不定法(構文)であることになる ★この文は平叙文の間接話法で,「対格+不定法」構文になっており,それに理由をあらわす従属文がついていることに注意 |
(試訳)(訳ではセミコロンはカマと同じ扱いにした) (1.2.1)ヘルウェティイー族のもとで,抜きんでて家柄が良く,金持ちだったのが,オルゲトリックスであった.彼はマルクス・メッサッラとマルクス・ピソーが執政官であった年に,王座への野望に導かれて,貴族たちに対して陰謀を企み,市民たちを,自国領から全軍を率いて出るようにと,説得した.(1.2.2.)ヘルウェティイー族は武勇において全ての者に勝っているので,全ガリアを支配下におさめるのは,極めて容易である(と言って). ※講談社学術文庫の國原吉之助訳を確かめたら,拙訳で「貴族たちに対して陰謀を企み」とある箇所を,「他の名門の者たちとひそかに示し合わせておき」とあった.確かに「陰謀」は「一緒に(con)息をする(spiro)」ということだから,國原訳の方が良いかも知れない.しかし,とりあえず,拙訳はそのままとしておく |