『ガリア戦記』(1.1.5)

(テクスト)

(1.1.5) Eorum una pars, quam Gallos obtinere dictum est, initium capit a flumine Rhodano; continetur Garumna flumine, Oceano, finibus Belgarum; attingit etiam ab Sequanis et Helvetiis flumen Rhenum; vergit ad septentriones.

(読み)

ールム・ーナ・ルス,クァム・ッロース・オブティーレ・ディクトゥム・エスト,イティウム・ピト・ー・フーミネ・ダノー.コンティートゥル・ルムナー・フーミネ,オーアノー,フィーニブス・ベルールム.アッティンギト・ティアム・ブ・ークァニース・ト・ヘルウェーティイース・フーメン・ーヌム.ウェルギト・ド・セプテントゥリーネース.

(語彙)

(1.1.5)

(以下,セミコロンによって3文に分けて考える)

第1文

 eorum:3人称の人称代名詞の代りに用いられる指示代名詞is, ea, id「それ,その」の男性・複数・属格.「彼ら」はここでは,文法的にはベルガエ人,アクィタニー人,ガリア人を受け,意味的には彼らの住んでいる地域を指すから,「これらのうちの一部分(一地方)」となる
 una:代名詞型の変化をする第1・第2変化の(単数のみ)数形容詞(基数)un-us, -a, -um「一つの」の女性・単数・主格
 pars:第3変化・女性名詞pars, partis, f.「部分(=地方)」の単数・主格
 quam:関係代名詞qui, quae, quodの女性・単数・対格.先行詞は「部分」で,「ガリア人が占拠していると言われている部分」とは上に述べた三つの地域の内の三番目の地域を指す
 Gallos:複数で用いられる第2変化・男性名詞Gall-i, -orum, m.pl.「ガリア人」の複数・対格.対格形は次の不定法の主語であることを示す.「対格+不定法」構文で,対格が「主語」か「目的語」かは文脈による
 obtinere:第2活用動詞obtineo, obtinere, obtenui, obtentum「占める,占拠する,獲得する」(英語のobtainの語源)の不定法・能動相・現在
 dictum:第3活用第1形動詞dico, dicere, dixi, dictum「言う」の完了分詞・中性・単数・主格.ここでは非人称構文で「〜である(不定法構文)と言わている,という話だ」(ここでは時制は完了だが,過去と考えるか,完了分詞の形容詞としての機能を重視して現在と考えるか悩ましい.ロウブ版の英訳は現在完了で訳している)となる.不定法(中性・単数扱い)が主語と考えても良い(「〜と言うこと」が言われている)が,一応前者と考えることにする
 est:不規則動詞sum, esse, fui, futurus「いる,ある,〜である」の直説法・能動相・現在・3人称・単数.「sum動詞+完了分詞」で受動相・完了の時制を構成するが,前述のようにここでは「言われている」と現在のように考えることにする
 initium:第2変化・中性名詞initi-um, -i, n.「始まり」の単数・対格
 capit:第3活用第2形動詞capio, capere, cepi, captum「捕らえる,つかむ」の直説法・能動相・現在・3人称・単数.主語は「部分」で,「始まりを捕らえる」は「始まる」の意
 a:奪格支配の前置詞「〜から」
 flumine:第3変化・中性名詞flumen, fluminis, n.「河」の単数・奪格
 Rhodano:第2変化・男性名詞Rhodan-us, -i, m.「ロダヌス河」(現在のローヌ河)の単数・奪格

 
第2文

 continetur:第2活用動詞contineo, continere, continui, contentum「囲む,含む」(英語のcontainの語源)の直説法・受動相・現在・3人称・単数
 Garumna:第1変化・女性名詞Garumn-a, -ae, f.「ガルムナ河」(現在のガロンヌ河)の単数・奪格
 flumine:第3変化・中性名詞flumen, fluminis, n.「河,川」の単数・奪格.女性名詞+中性名詞を同格で並べて「ガルムナ河」となる
 Oceano:第2変化・男性名詞Ocean-us, -i, m.「オケアヌス(オーケアヌス),大洋」(ギリシア語オーケアノスから),元来ギリシア神話では世界を取り巻く大河を意味したが,後世「大洋」を意味するようになり英語のoceanの語源となった.ここでは「大西洋」を指している
 finibus:第3変化・男性名詞fin-is, -is, m.「終わり,限界,境界,(複数で)領域,領土」
 Belgarum:複数で使われる第1変化・男性名詞Belg-ae, -arum, m.「ベルガエ人」の複数・属格

第3文

 attingit:第3活用第1形動詞attingo, attimgere, attigi, attactum「(〜に:対格)到達する,接する」の直説法・能動相・現在・3人称・単数.主語は「部分」
 etiam:副詞「さらに,〜もまた,〜ですら」
 ab:奪格支配の前置詞「〜から」
 Sequanis:複数で用いられる第2変化・男性名詞(本来は第1・第2変化形容詞)Sequan-i, -orum, m.pl.「セクァニー(セークァニー)族」の複数・奪格
 et:接続詞「〜と,そして」
 Helvetiis:複数で用いられる第2変化・男性名詞(本来は第1・第2変化形容詞)Helveti-i, -orum, m.pl.「ヘルウェティイー(ヘルウェーティイー)族」の複数・奪格
 flumen:第3変化・中性名詞flumen, fluminis, n.「河,川」の単数・対格.中性名詞+男性名詞を同格で並べて「レヌス河」となる
 Rhenum:第2変化・男性名詞Rhen-us, -i, m.「レヌス(レーヌス)河」(現在のライン河)

第4文

 vergit:第3活用第1形動詞vergo, vergere, -, -「(〜に,〜へと)向かう,位置する,面する」
 ad:対格支配の前置詞「〜へと,〜に向かって」
 septentriones:通常は複数で用いられる第3変化・男性名詞setentorines, septentrionum, m.pl.「北,北方(原義は七頭の耕作牛を意味し,「大熊座」にあたる星座を指す)

(試訳)(訳ではセミコロンはカマと同じ扱いにした)

  これらのうちの一地方は,そこをガリア人が占めていると言われるが,ロダヌス河から始まりガルムナ河(=南),大洋(=西),ベルガエ人の領土(=北)によって囲まれ,更にセクァニー族とヘルウェティイー族(の住む地域)から(見ると)ライン河(=東)に至り,(全体として)北に向かっている(※國原:ローマ領の北に位置している).