カエサル『ガリア戦記』(1.1.3) |
(テクスト) (1.1.3.) Horum omnium fortissimi sunt Belgae, propterea quod a cultu atque humanitate provinciae longissime absunt, minimeque ad eos mercatores saepe commeant atque ea quae ad effeminandos animos pertinent important, proximeque sunt Germanis, qui trans Rhenum incolunt, quibuscum continenter bellum gerunt. |
(読み) ホールム・オムニウム・フォルティッシミー・スント・ベルガエ,プロプテレアー・クォド・アー・クルトゥー・アトクェ・フーマーニターテ・プローウィンキアエ・ロンギッシメー・アプスント,ミニメークェ・アド・エオース・メルカートーレース・サエペ・コンメアント・アトクェ・エア・クァエ・アド・エッフェーミナンドース・アニモース・ペルティネント・インポルタント,プロクシメークェ・スント・ゲルマーニース,クィー・トラーンス・レーヌム・インコルント・クィブスクム・コンティネンテル・ベッルム・ゲルント. |
(語彙) (1.1.3.) horum:指示代名詞hic, haec, hoc「これ,この」の男性・複数・属格.「この者たち=ベルガエ人,アクィタニ人&ガリア人」 omnium:第3変化形容詞omn-is, -e「全ての」の男性・複数・属格.「これらの者たち全ての中で」(部分の属格) fortissimi:第3変化形容詞fort-is, -e「強い」の最上級・男性・複数・・主格 sunt:不規則動詞sum, esse, fui, futurus「ある,いる,〜である」の直説法・現在・3人称・複数 Belgae:複数で用いられる第1変化・男性名詞Belg-ae, -arum, m.pl.「ベルガエ人」の主格 propterea:副詞「それゆえに」だが,ここでは次の接続詞quodと連動して,「quod以下の理由で」 a:奪格支配の前置詞「〜から」 cultu:第4変化・男性名詞cult-us, -us, m.「文化,教養,文明,都市文化」 atque:接続詞「そして,〜と」 humanitate:第3変化・女性名詞humanitas, humanitatis, f.「人間性,人文教養,学問」 provinciae:第1変化・女性名詞provinci-a, -ae, f.「属州」(ローマの直轄領である地方)(南仏には都市ナルボーを中心とした属州ガリア・ナルボネンシスがあったので,南仏はプロヴァンスと言われるようになった)の単数・属格 longissime:副詞longe「遠くに」の最上級 absunt:不規則動詞absum, abesse, afui, (afuturus)「離れている,いない」(英語のabsent, absenceの語源)の直説法・能動相・現在・3人称・複数 minimeque:最上級の副詞「滅多に〜ない,全然〜ない」+接続詞-que「〜と,そして」 ad:対格支配の前置詞「〜(の所)へと」 eos:三人称の人称代名詞として使われる指示代名詞is, ea, idの男性・複数・対格.「彼ら」はここではベルガエ人を指す mercatores:第3変化・男性名詞mercator, mercatoris, m.「商人」の複数・主格 saepe:副詞「しばしば」 commeant:第1活用動詞comme-o, -are, -avi, -atum「往来する,行き来する」の直説法・能動相・現在・3人称・複数 atque:接続詞「〜と,そして」 ea:指示代名詞is, ea, id「それ,その」の中性・複数・対格.関係文によって内容が説明されている. quae:関係代名詞qui, quae, quodの中性・複数・主格.先行詞はeaで対格だが,関係詞の格は関係文中の文法的意味によって決まり,ここでは関係文の動詞の主語なので主格 ad:前置詞「〜へと」 effeminandos:第1活用動詞effemin-o, -are, -avi, -atum「女性的にする,軟弱にする,柔弱にする」の動形容詞effeminand-us, -a, -umの男性・複数・対格.この用法はラテン文法の最難関の一つ「動形容詞による動名詞の代用」である.これは動名詞「柔弱にすること」が「魂,精神」を目的語に取るが,その意味のまとまりが全体として前置詞の目的語になると,動名詞のままで目的語を取らせることはせずに,本来目的語になるはずの名詞を前置詞の目的語に置き,それと性・数・格を一致する動名詞と同系統の動形容詞で,その目的語を修飾する形にする.本来であればad effeminandum animosになるべき所をad effeminandos animosとする.これはラテン文では頻出するので,場数を踏んでなれることが慣用 animos:第2変化・男性名詞anim-us, -i, m.「魂,精神」の複数・対格 pertinent:第2活用動詞pertineo, pertinere, petinui, -「達する,属する,関係する」の直説法・能動相・現在・3人称・複数.「精神を柔弱化に至らしめるようなもの」が先行詞+関係文の意味か important:第1活用動詞import-o, -are, -avi, -atum「運ぶ,もたらす」の直説法・能動相・現在・3人称・複数.主語は「商人たち」 proximique:第1・第2変化形容詞(原級では副詞または対格支配の前置詞としてしか使われないprope「近くに」の最上級の形)proxim-us, -a, -um「最も近い,隣接している」の男性・複数・主格+接続詞「〜と,そして」.主語「ベルガエ人」の主格補語 sunt:不規則動詞sum, esse, fui, futurus「ある,いる,〜である」の直説法・能動相・現在・3人称・複数.主語は「ベルガエ人」 Germanis:第1・第2変化形容詞German-us, -a, -um「ゲルマニアの,ゲルマン人の」の男性・複数・与格.男性・複数は名詞化して「ゲルマン人」 qui:関係代名詞qui, quae, quodの男性・複数・主格.先行詞は「ゲルマン人」 trans:対格支配の前置詞「〜の向こうに,〜を越えて」 Rhenum:第2変化・男性名詞Rhen-us, -i, m.「レヌス(レーヌス)河」(現在のライン河)の単数・対格 incolunt:第3活用第1形動詞incolo, incolere, incolui, incultum「住む,住んでいる,居住している」の直説法・能動相・現在・3人称・複数 quibuscum:関係代名詞qui, quae, quodの男性・複数・奪格+奪格支配の前置詞cum「〜とともに」.cumは代名詞との組み合わせでは後置され,一語のように扱われる.前置詞の先行詞は「ゲルマン人」 continenter:副詞「常に,絶えず」 bellum:第2変化・中性名詞bell-um, -i, n.「戦争」の単数・対格 gerunt:第3活用第1形動詞gero, gerere, gessi, gesutum「もたらす,達成する,遂行する,する」(目的分詞形をみれば,この動詞の未来分詞から英語のgestureが生じたことがわかる)の直説法・能動相・現在・3人称・複数 |
(試訳) (1.1.3)これらの者たち全てのうちでベルガエ人が最も強かったが,その理由は属州の文化と文明から最も遠い所にいるからであり,彼らの所へは,商人たちが頻繁に往来することも,精神を柔弱にさせるに至る物品を商人たちがもたらすことも極めて稀で,ライン河の向こうに住むゲルマン人と隣り合っていて,彼らと常に干戈を交えているからである. |