『アエネイス』講読
(第1巻365-371行)

テクスト
devenere locos, ubi nunc ingentia cernis      365
moenia surgentemque novae Karthaginis arcem,
mercatique solum, facti de nomine Byrsam,
taurino quantum possent circumdare tergo.
sed vos qui tandem? quibus aut venistis ab oris?
quove tenetis iter?" quaerenti talibus ille      370
suspirans imoque trahens a pectore vocem:
                              (365-371)

語彙
365行
366行
367行
368行
369行
370行
371行


(語彙)

365行 (テクストへ

 devenere:第4活用動詞devenio, devenire, deveni, deventum「〜へと(対格)至る」の直説法・能動相・完了・3人称・複数(=devenerunt)
 locos:第2変化・男性名詞(複数は中性形になることはよくあるが,ここでは複数も男性)・複数・対格
 ubi:関係副詞で,先行詞がどのような所かを説明
 nunc:副詞「今,現在」
 ingentia:第3変化形容詞ingens, ingentis「巨大な,大きな」の中性・複数・対格
 cernis:第3活用第1形動詞cerno, cernere, crevi, cretum「見る,確認する,認識する」

366行 (テクストへ

 moenia:複数で用いられる第3変化・中性名詞moenia, moenium, n.pl.「城壁,城塞,城市」の複数・対格
 surgentemque:第3活用第1形動詞surgo, surgere, surrexi, surrectum「立ち上がる,起き上がる,聳え立つ」の女性・単数・対格+接続詞-que「〜と,そして」
 novae:第1・第2変化形容詞nov-us, -a, -um「新しい」の女性・単数・属格
 Karthaginis:第3変化・女性名詞Karthago (Carthago), Karthaginis (Carthaginis), f.「(北アフリカの都市)カルタゴ(カルターゴー)」の単数・属格
 arcem:第3変化・女性名詞arx, arcis, f.「砦,城塞,塔」の単数・対格

367行 (テクストへ

 mercatique:第1活用の形式受動相動詞merc-or, -ari, -atus sum「買う」の完了分詞・男性・複数・主格+接続詞-que「〜と,そして」.このまま主語の副詞的同格と考えるか,suntを補って直説法・受動相・完了と考えるか,両方可能性があるが,-queがあるので,一応後者と考える
 solum:第2変化・中性名詞sol-um, -i, n.「大地,土地」の単数・対格
 facti:第2変化・中性名詞fact-um ,-i, n.「行為」の単数・属格
 de:奪格支配の前置詞「〜から,〜について,〜ゆえに」
 nomine:第3変化・中性名詞nomen, nominis, n.「名前」
 Byrsam:第1変化・女性名詞Byrs-a, -ae, f.「(土地の名前)ビュルサ」の単数・対格.ここではギリシア語の「牛皮」(ブルサ)に結びつけているが,元来はフェニキア語ボスラ(城塞 )で,この話はローマ人(もしくはギリシア人)からの民間語言説(folk etymology)と考えられる

368行 (テクストへ

 taurino:第1・第2変化形容詞taurin-us, -a, -um「雄牛(taurus)の」の中性・単数・奪格
 quantum:疑問形容詞quant-us, -a, -um「どれほどの」の中性が副詞化して「〜の分だけ」
 possent:不規則動詞possum, psse, potui, -「(不定法とともに)〜できる」の接続法・未完了過去・3人称・複数
 cirucumdare:第1活用を基本とする不規則動詞circumd-o, -are(アーレではなくアレ), -edi, -atum「囲む,覆う」の不定法・能動相・現在
 tergo:第2変化・中性名詞terg-um ,-i, n.「背,背中,背革」の単数・奪格.「牛の」と「背革」という修飾・被修飾の関係の二語を行頭と行末に置くことにより「囲む,覆う」という意味を視覚的にも強調しており,ウェルギリウスには特徴的な語法である

369行 (テクストへ

 sed:接続詞「しかし,一方」
 vos:2人称・複数の人称代名詞vos「あなた方」の主格
 qui:疑問代名詞quism quidの男性・複数(複数は関係代名詞と同形)・主格.suntが省略されている
 tandem:副詞「結局,要するに,実のところ」
 quibus:疑問形容詞(関係代名詞と同形)の女性・複数・奪格
 aut:接続詞「〜か,あるいは」
 venistis:第4活用動詞vinio, venire, veni, ventum「来る」の直説法・能動相・完了・2人称・複数
 ab:奪格支配の前置詞「〜から」
 oris:第1変化・女性名詞or-a, -ae, f.「海岸,岸辺」の複数・奪格

370行 (テクストへ

 quove:疑問副詞「どこへと」+接続詞-ve「〜か,あるいは」
 tenetis:第2活用動詞teneo, tenere, tenui, tentum「保つ,向ける」の直説法・能動相・現在・2人称・複数
 iter:第3変化・中性名詞iter, itineris, n.「道,旅」の単数・対格.「〜へと道を保つ」→「旅をする,向かう」
 quaerenti:第3変化第1形動詞quaero, quaerere, quaesivi, quaesitum「尋ねる,問う」の現在分詞・女性・単数・与格.明示されていない間接目的語のウェヌスに一致
 talibus:第3変化の不定形容詞tal-is, -e「このような」の中性・複数・奪格.verbisが省略されていて「このような言葉によって尋ねる彼女に」という意味になる
 ille:指示代名詞ille, illa, illud「あれ,あの」の男性・単数・主格.ここでは「彼=アエネアス」

371行 (テクストへ

 suspirans:第1活用動詞susupir-o, -are, -avi, -atum「息をする,ため息をつく」の現在分詞・男性・単数・主格.前行末の「彼」の副詞的同格
 imoque:第1・第2変化形容詞im-us, -a, -um「最も低い,最も奥の」の中性・単数・奪格+接続詞-que「そして,〜と」
 trahens:第3活用第1形動詞traho, trahere, traxi, tractum「引く,引き出す,引きずり出す」の現在分詞・男性・単数・主格.主語「彼」の副詞的同格
 vocem:第3変化・女性名詞vox, vocis, f.「声」の単数・対格.ここでは「声を発して(次のように)言った」の「言った」が省略されている

(試訳)

彼らが着いた場所というのが,今あなたが巨大な城壁と,
新しいカルタゴの聳え立つ城市を見ている所なのだ.
彼らはそこで,出来事の名によってビュルサと言われる土地を買ったが,
それは雄牛の背革で覆うことのできる限りの土地だったのだ.
ところであなた方はどなたなのですか.どの岸辺から来たのですか.
どこへ向かうのですか.」アエネアスはこのように問う彼女に対して,
ため息をつき,胸の奥底から声を引き出して,(次のように言った.)
                                   (365−371行)