『アエネイス』講読
(第1巻353-356行)
テクスト
ipsa sed in somnis inhumati venit imago
coniugis; ora modis attollens pallida miris
crudelis aras traiectaque pectora ferro      355
nudavit, caecumque domus scelus omne retexit.
                           (353-356)





語彙
353行
354行
355行
356行


(語彙)

353行 (テクストへ

 ipsa:指示代名詞ipse, ipsa, ipsum「彼自身,それ自体,まさにその」の女性・単数・主格.行末のimagoを形容して「まさにシュカエウスの幻が」
 sed:接続詞「しかし」
 in:奪格支配の前置詞「〜において」
 somnis:第2変化・男性名詞somn-us, -i, m.「眠り」の複数・奪格.複数になっているのは「何度も」ということもあるかも知れないが,単数形somnoだと次の語の語頭と母音衝突を起こし,韻律的に不都合なので,という理由もあると思われる.これを「韻律上の理由で」(metri causa)(メトリー・カウサー)と称する
 inhumati:第1・第2変化形容詞inhumat-us, -a, -um「埋葬されていない」の男性・単数・属格
 venit:第4活用動詞venio, venire, veni, ventum「来る,現れる」の直説法・能動相・完了(韻律上ウェニトではなくウェーニト)・3人称・単数
 imago:第3変化・女性名詞imago, imaginis, f.「像,姿,幻影」の単数・主格

354行 (テクストへ

 coniugis:第3変化・男女共用名詞coniunx, coniugis, mf.「夫,妻,伴侶」の単数・主格(ここでは男性なので「夫」)
 ora:第3変化・中性名詞os, oris, n.「口,顔」の複数(メトリー・カウサー)・対格
 modis:第2変化・男性名詞mod-us, -i, m.「様式,仕方,様子」の複数・奪格
 attollens:第3活用第1形動詞attollo, attollere, attollere「持ち上げる」の現在分詞・女性・単数・主格.主語の「幻」の副詞的同格
 pallida:第1・第2変化形容詞pallid-us, -a, -um「青白い,青ざめた,蒼白の」の中性・複数・対格
 miris:第1・第2変化形容詞mir-us, -a, -um「驚くべき,驚異的な」の複数・奪格

355行 (テクストへ

 crudelis:第3変化形容詞crudel-is, -e「残酷な」の女性・複数・対格.韻律上クルーデーリースと最終音節が長音でなければならないので,複数・対格(=crudelesクルーデーレース)でなければならない
 aras:第1変化・女性名詞ar-a, -ae, f.「祭壇」の複数(メトリー・カウサーもしくは「単数の代わりの複数」)・対格.「残酷な祭壇」→「残虐行為がその前で行われた祭壇」
 traiectaque:第3活用第1形動詞traicio, taraicere, turaieci, traiectum「貫く」の完了分詞・中性・複数・対格+接続詞-que「そして,〜と」
 pectora:第3変化・中性名詞pectus, pectoris, n.「胸」の複数(メトリー・カウサーもしくは「単数の代わりの複数」)・対格
 ferro:第2変化・中性名詞ferr-um ,-i, n.「鉄→剣」の単数・奪格

356行 (テクストへ

 nudavit:第1活用動詞nud-o, -are, -avi, -atum「裸にする,剥き出しにする,露わにする」の直説法.能動相・完了・3人称・単数
 caecumque:第1・第2変化形容詞caec-us, -a, -um「盲目の→見えない」の中性・単数・対格+接続詞-que「〜と,そして」
 domus:第4変化・女性名詞dom-us, -um, f.「家」の単数・属格
 scelus:第3変化・中性名詞scelus, sceleris, n.「罪」の単数・対格
 omne:第3変化形容詞omn-is, -e「全ての」の中性・単数・対格
 retexit:第3活用第1形動詞retego, retegere, retexii, retectum「覆いを取る,暴く,明らかにする」の直説法.能動相・完了・3人称・単数

(試訳)
だが,埋葬されていない夫シュカエウスのまさにその幻影が眠りの中に
現れた.その幻は驚くような様子で蒼白な顔をもたげ,
残虐行為が行われた祭壇と,剣に貫かれた胸を
露わにし,家の見えないままの罪を全て暴いた.
                                   (353−356行)