『アエネイス』講読 (第1巻 19−22行) |
(テクスト)
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19行目 (テクストへ) progeniem:第5変化・女性名詞 progeni-es, -ei, f.「子孫」の単数・対格.対格+不定法構文で,行末の不定法 duciの主語 sed:接続詞「しかし」 enim:接続詞「確かに,というのも」ここではsed enimで「だが,実は」くらいの Troiano:第1・第2変化形容詞 Troian-us, -a, -um「トロイアの」の中性・単数・奪格.「血」を修飾 a:奪格支配の前置詞 a, ab, abs「〜から」の子音の前で用いられる形 sanguine:第3変化・中性名詞 sanguis, sanguinis, n.「血,血筋,血統」の単数・奪格 duci:第3活用第1形動詞 duco, ducere, duxi, ductumの不定法・受動相・現在 |
20行目 (テクストへ) audierat:第4活用動詞 audio, audire, audivi, auditum「聞く,聞こえる」の直説法・能動相・過去完了・3人称・単数 audiveratの別形.主語はユノー Tyrias:第1・第2変化形容詞 Tyri-us, -a, -um「テュロス(テュルス)の,フェニキアの」の女性・複数・対格.当然「カルタゴの」の意味になる olim:副詞「かつて(過去),いつの日か(未来)」ここでは後者 quae:関係代名詞 qui, quae, quodの女性・単数・主格.先行詞は「子孫」.先行詞が対格でも,関係文中の文法的位置によって主格になっている.関係文の動詞の主語だからである.関係代名詞は先行詞と性・数は一致するが,格は必ず一致するとは限らない. vereteret:第3活用第1形動詞 verto, vertere, verti, versum「覆す,転がす」の接続法・能動相・未完了過去・3人称・単数.「不定法・能動相・現在+活用語尾=接続法・未完了過去」を思い出す.主語は関係代名詞quaeで,「〜することになっている」と目的文のようになっているので,関係文中の動詞は接続法になる.時制の未完了過去は主動詞が副時称(=過去時称:この場合過去完了)だから. arces:第3変化・女性名詞 arx, accis, f,「城砦,砦,塔」の複数・対格.ここでは比喩的に「城市」くらいの意か |
21行目 (テクストへ) hinc:副詞「ここから」 populum:第2変化・男性名詞 popul-us, -i, m.「人々,民族,国民」の単数・対格.省略されているが未来分詞と結びつく不定法による対格+不定法構文の主語.「ここから民族と・・が〜へと(生まれ)来るであろうことを(ユノーは聞いていた)」(・・の部分に修飾語を伴った「王」が入り,〜の部分に「リビュアの滅亡」が入る) late:副詞「広く」 regem:第3変化・男性名詞 rex, regis, m.「王」の単数・対格.読書会で,この王は誰を指すのかが問題になり,私も明確に答えられませんでしたが,よく考えると,「人々」の同格で,後で紹介する古注家セルウィウスの説に従って「王」という言葉に縁語である「支配する」という動詞の意味を読みとり,「(世界に)王である国民」,すなわち「広い範囲にわたって支配し,戦いに(勝って)驕る人々」 belloque:第2変化・中性名詞 bell-um, -i, n.「戦争」の単数・奪格+-que「そして,と」 superbum:第1・第2変化形容詞 superb-us, -a, -um「傲慢な,奢り高ぶった,誇り高い」の男性・単数・対格.「王」を修飾すると思ったが,「王」が同格で「人々」を修飾するのと並列で「人々」を修飾すると考えた方が良いように思い直した |
22行目 (テクストへ) venturum:第4活用動詞 venio, venire, veni, ventum「来る」の未来分詞・男性・単数・対格.「民族」と「王」にそれぞれ一致する.不定法esseが省略されていると考える.Sum動詞(英語のbe動詞)+未来分詞は不定法構文その他で未来形の代用として使われる excidio:第2変化・中性名詞 excidi-um, -i, m.「滅亡,破壊」の単数・与格 Libyae:第1変化・女性名詞 Liby-a, -ae, f.「リビュア,(北)アフリカ」の単数・属格 sic:副詞「このように」 volvere:第3活用第1形動詞 volvo, volvere, volui, volutum(他動詞)「転がす,展開させる」,(自動詞)「転がる,展開する」の不定法・能動相・現在 Parcas:第1変化・女性名詞 Parc-a, -ae, f.「運命の女神」(三人一組)(ギリシアのモイラ(イ)にあたる)(糸を紡いで,紡ぎ車を回している)の複数・対格.対格+不定法構文でvolvereの主語.「このように運命の女神たちが(運命を)展開させる(とユノーは聞いていた)」と取るのが普通(動詞は他動詞で目的語が省略)だが,動詞を自動詞と考えれば,運命の女神たちを運命そのものと考えて「このように運命は展開する」と取れないこともない.考えすぎとは思うが「運命の女神たち」を目的語と考え「このように(誰かが)運命を展開させる」と取る可能性も皆無ではない(皆無かな?) |
(試訳)
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(補遺) 古注家セルウィウスは21行目に関して次のような注解を施している. HINC POPVLUM LATE REGEM. Laudat autem eorum imperium dicendo ‘populum regem’. LATE REGEM pro late regnaturum, nomen pro participio. 「ここから広きに王たる人民が」:「王たる人民」と言うことによって,彼らの覇権を(詩人は)称賛している.「広きに王たる」は「分詞の代わりの名詞」で,「広きに渡って支配するために(未来分詞)」(の意味で使われている) |