『アエネイス』講読 (第1巻267-274行) |
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(語彙) |
267行 (テクストへ) At:接続詞「しかし,一方,ところで」 puer:第2変化・男性名詞puer, pueri, m.「少年,子ども」の単数・主格 Ascanius:第2変化・男性の固有名詞Ascani-us, -i, m.「アエネアスの息子アスカニウス(アスカーニウス)」の単数・主格 cui:関係代名詞qui, quae, quodの3性共通の単数・与格.ここではアスカニウスが先行詞なので男性 nunc:副詞「今,今は,今や,さあ」 cognomen:第3変化・中性名詞cognomen, cognominis, n.「家名,姓」.歴史時代の人物であれば,たとえばガイウス・ユリウス・カエサルは,ガイウスがpraenomen(個人名),ユリウスがnomen(氏族名),カエサルがcognomen(家名)になり,ここから現代イタリア語の「姓」(コニョーメ)も派生したが,ここではカエサル家の氏族名ユリウス(ユーリウス)のもとになったとされるユールス(イウールス)の名が,アスカニウスに「呼び名」として付加されたことを言っており,「呼び名,呼称,通称,添え名」の意味で使われている Iulo:第2変化・男性の固有名詞Iul-us, -i, m.「アエネアスの息子ユルス(ユールス,イウールス)」の単数・与格.ギリシア語ではイウーロスだったので,イウールスが最も近いと思われるが,ラテン語のIiは母音の前では子音化して日本語の「ヤ行」の」ような音をつくる働きをする.その場合Iuloは2音節語(ユーロー)になるが,ここは韻律上短音から始まる3音節語(イウーロー)になった方が都合が良い.従って,ラテン語では通常ユルス・アスカニウス(ユールス・アスカーニウス)と言われている人物がここではイウルス・アスカニウス(イウールス・アスカーニウス)となると考えられる.ただし,ユーローと考えても,確かにこの行の5脚目が−∪∪(長・短・短)なら望ましいが,ホメロスなどではよくでてくる代用の−−(長・長)になると思えば,全く不可能ではない.本来ならば,アスカニウスの同格として主格になるはずだが,関係代名詞の与格に牽引されて与格になっている |
268行 (テクストへ) additur:第3活用第1形動詞addo, addere, addidi, additum「加える,付加する」の直説法・受動相・現在・3人称・単数 Ilus:第2変化・男性の固有名詞Il-us, -i, m.「イルス(イールス)」の単数・主格 erat:不規則動詞sum, esse, fui, (furturus)「〜がある,〜である」の直説法・能動相・未完了過去・3人称・単数.主語は前行の「(その)少年」 dum:従属接続詞.従属文の動詞が直説法の場合は「〜する間」,接続法の場合は「〜するまで」 res:第5変化・女性名詞res, rei, f.「事物,物,事,事情,国家」の単数・主格 stetit:第1活用動詞sto, stare, steti, statum「立つ,〜(の状態)である」の直説法・能動相・完了・3人称・単数 Ilia:第1・第2変化形容詞Ili-us, -a, -um「イリオン(イーリオン=トロイア)の,イリウム(イーリウム)の」女性・単数・主格.resを修飾して,「トロイアの国(の状態)」 regno:第2変化・中性名詞regn-um, -i, n.「王権,王国」の単数・奪格.奪格は「描写の奪格」,「性質の奪格」で,sum動詞とともに,「王権の状態にある→王権が確固たる状態にある」 |
269行 (テクストへ) triginta:不変化の数形容詞「30(の)」の複数(単数はない)・対格.行末のorbisを修飾 magnos:第1・第2変化形容詞magn-us, -a, -um「大きな」の男性・複数・対格.行末のorbisを修飾 volvendis:第3活用第1形動詞volvo, volvere, volvi, volutum「回る,巡る,巡らせる,回す」の動形容詞・男性・複数・奪格.mensibusを修飾.ギリシア語には存在する受動相の現在分詞の代わりに使われている mensibus:第3変化・男性名詞mesns-is, -is, m.「(12ヶ月の)月」の複数・奪格 orbis:第3変化・男性名詞orb-is, -is, m.「輪,円環,循環,巡り」の複数・対格(=orbes) |
270行 (テクストへ) imperio:第2変化・中性名詞imperi-um, -i, n.「支配権,支配領域,命令権,支配,命令」の単数・奪格 explebit:第2活用動詞expleo, explere, explevi, expletum「(完全に)満たす」の直説法・能動相・未来・3人称・単数.主語は「(その)少年」 regnumque:第2変化・中性名詞regn-um, -i, n.「王権,王国」の単数・」対格+後接の接続詞-que「〜と,そして」 ab:奪格支配の前置詞「〜から」(分離) sede:第3変化・女性名詞sedes, sedis, f.「座所,座席,座,居所,場所」の単数・奪格 Lavini:第2変化・中性の固有名詞Lavini-um, -i, n.「(アエネアスが建国する新しい国)ラウィニウム(ラウィーニウム)」の単数属格Laviniiの縮約形(韻律上ラウィーニイーよりラウィーニーが都合が良いし,このタイプの縮約は珍しくない) |
271行 (テクストへ) transferet:不規則動詞transfero, transferre, transtuli, taranslatum, 「移す」の直説法・能動相・未来・3人称・単数 et:接続詞「〜と,そして」 longam:第1・第2変化形容詞long-us, -a, -um「長い」の女性・単数・対格.「長いアルバ」は「アルバ・ロンガ」という町の名前 multa:第1・第2変化形容詞mult-us, -a, -um「多くの,多量の」の女性・単数・奪格 vi:不規則変化・女性名詞vis, f.「力」の単数・奪格 muniet:第4活用動詞munio, minire, munivi, munitum「城壁を築く,城壁で囲む,築城する,(町を)建設する,(国を)建国するの直説法・能動相・未来・3人称・単数 |
272行 (テクストへ) hic:副詞「ここで」 iam:副詞「その時,既に,それから」 ter:副詞「三度」 centum:不変化の数形容詞「百(の)」 totos:代名詞型変化をする第1・第2変化形容詞tot-us, -a, -um「全ての」の男性・複数・対格 regnabitur:第1活用動詞regn-o, -are, -avi, -atum「支配する,君臨する」の直説法・受動相・未来・3人称・単数.主語は「王国」 annos:第2変化・男性名詞ann-us, -i, m.「年」の複数・対格.いわゆる「延長の対格」で「期間」を意味する.「三度,百年間」で「三百年間」 |
273行 (テクストへ) gente:第3変化・女性名詞gens, gentis, f.「種族,一族,部族,民族」の単数・奪格 sub:奪格支配の前置詞「〜のもとに,〜の下に」 Hectorea:第1・第2変化形容詞Hectore-us, -a, -um「(トロイアの英雄)ヘクトルの,トロイアの」の女性・単数・奪格 donec:従属接続詞「〜する限りは,〜する間は,〜するまでは」 regina:第1・第2変化形容詞regi-us, -a, -um「王の,王族の」の女性・単数・主格 sacerdos:第3変化・男女共通名詞sacerdos, sacerudotis, mf.「祭司,女祭司,巫女」の単数・主格.修飾している形容詞が女性形なので,女性名詞 |
274行 (テクストへ) Marte:第3変化・男性の固有名詞Mars, Martis, m.「軍神マルス」の単数・奪格 gravis:第3変化形容詞grav-is, -e「重い,身重の,妊娠している」の女性・単数・主格.前行の「巫女」を修飾 geminam:第1・第2変化形容詞gemin-us, -a, -um「双子の,二重の」の女性・単数・対格.行末のprolemを修飾 partu:第4変化・男性名詞part-us, -us, m.「出産」の単数・奪格 dabit:不規則動詞do, dare, dedi, datum「与える」の直説法・能動相・未来・3人称・単数.「出産によって与える」は「〜のために産む」 Ilia:第1変化・女性の固有名詞Ili-a, -ae, f.「イリア(イーリア)」の単数・主格.「トロイア(イリオン)の女,娘」の意味で,主要な伝承ではレア・シルウィアという名で呼ばれる prolem:第5変化・女性名詞prol-es, -ei, f.「子孫,子どもたち」の単数・対格.「双子の子ども」はロムルス(ロームルス)とレムスを指す |
(試訳)
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