『アエネイス』講読
(第1巻261-266行)

テクスト
Hic tibi (fabor enim, quando haec te cura remordet,
longius et volvens fatorum arcana movebo)
bellum ingens geret Italia, populosque feroces
contundet, moresque viris et moenia ponet,
tertia dum Latio regnantem viderit aestas,               265
ternaque transierint Rutulis hiberna subactis.
                        (261-266行)


語彙
261行
262行
263行
264行
265行
266行


(語彙)
261行 (テクストへ)

 Hic:指示代名詞hic, haec, hoc「これ,この」の男性・単数・主格.「この男」=「彼」はここではウェヌスの息子アエネアスを指す
 tibi:2人称・単数の人称代名詞tu「あなた,お前」の与格.「お前にとって良い事に」という「利害の与格」,「お前の息子であるこの男」という「所有の与格」のニュアンスを含みつつ,語調を整えるために軽く添えられたものと考える
 ( ):括弧(parenthesisuパレンティシス)の記号はあくまでも,現代の校訂者が付したものだが,文法的に前後の文から浮いている場合は,「挿入文」と考えて,パレンテシスにする.
 fabor:第1活用の形式受動相(能動相欠如)動詞for, fari, fatusu sum「言う」の直説法・受動相(意味は能動)・未来・1人称・単数
 enim:接続詞「だから,それ故,確かに,実際」
 quando:接続詞「〜の時に」.「時」の他に「理由」も意味するので,「〜ので」と考える
 haec:指示代名詞hic, haec, hoc「これ,この」の女性・単数・主格.形容詞的に使われていて,curaを修飾
 te:2人称・単数の人称代名詞tu「あなた,お前」の対格
 cura:第1変化・女性名詞cur-a, -ae, f.「憂い,心配,配慮」の単数・主格
 remordet:第2活用動詞remordeo, remordere, remordi, remorsum「何度も噛む,繰り返し噛む,苦しめる」の直説法・能動相・現在・3人称・単数

262行 (テクストへ)

 longius:第1・第2変化形容詞long-us, -a, -um「長い,遠い」から派生した副詞longe「長く,遠く」の比較級.派生副詞の比較級はもとの形容詞の比較級の中性・単数・対格を用いる
 et:接続詞「〜と,そして」
 volvens:第3活用第1形動詞volvo, volvere, volvi, volutum「回す,転がす,巻物を巻く,紐解く」の現在分詞・男性・単数・主格.主語である「私」(ユピテル)に一致している副詞的同格
 fatorum:第2変化・中性名詞fat-um, -i, n.「運命,宿命,定め」の複数・属格
 arcana:第1・第2変化形容詞arcan-us, -a, -um「秘密の,隠された」の中性・複数・対格.ここでは名詞化して「秘密,秘密を記した巻物」
 movebo:第2活用動詞moveo, movere, movi, motum「動かす,取り除く」の直説法・能動相・未来・1人称・単数.「秘密を明かす」という意味で使われているだろう

263行 (テクストへ)

 bellum:第2変化・中性名詞brll-um, -i, n.「戦い」の単数・対格
 ingens:第3変化形容詞ingens, ingnetis, adj.「大きい,巨大な」の中性・単数・対格.bellumを修飾
 geret:第3活用第1形動詞gero, gerere, gessi, gestum「運ぶ,もたらす,実行する,完遂する」の直説法・能動相・未来・3人称・単数
 Italia:第1変化・女性名詞Itali-a, -ae, f.「イタリア」の単数・奪格.前置詞なしの詩的用法の「場所の奪格」で「イタリアにおいて」
 populosque:第2変化・男性名詞popul-usm -i, m.「人々,民族」の複数・対格.複数形なので,「諸民族,諸部族」の意味
  feroces:第3変化形容詞ferox, ferocis, adj.「猛々しい,勇猛な」の男性・複数・対格

264行 (テクストへ)

 contundet:第3活用第1形動詞contundo, contundere, contudi, contu(n)sum「打ち砕く,打ち破る,破壊する,征服する」の直説法・能動相・未来・3人称・単数
 moresque:第3変化・男性名詞mos, moris, m.「習慣,気質,性格,(複数で)規範,掟,風潮」の複数・対格
 viris:第2変化・男性名詞vir, viri, m.「男,兵士」の複数・与格.通常,この語は英語のmanなどと違い,「男」を意味して,一般的な「人」の意味の語はhomoを使うが,ここでは「人々」という意味であろう
 et:接続詞「〜と,そして」
 moenia:複数形で用いられる第2変化・中性名詞moeni-a, -orum, n.「城壁,城市,街,国」の対格
 ponet:第3活用第1形動詞pono, ponere, posui, positum「置く,棄てる,定める,設置する,建設する」の直説法・能動相・未来・3人称・単数

265行 (テクストへ)

 tertia:第1・第2変化形容詞terti-us, -a, -um「3番目の」女性・単数・主格.行末のaetasを修飾
 dum;従属文を導く接続詞で,従属文中の動詞が直説法なら「〜する間」,接続法なら「〜するまで」となる.ここでは動詞が接続法・完了なので後者
 Latio:第2変化・中性名詞Lati-um, -i, n.「ラティウム地方」の単数・奪格.前置詞なしの詩的用法で「場所の奪格」
 regnantem:第1活用動詞regn-o, -are, -avi, -atum「支配する,君臨する」の現在分詞・男性・単数・対格.省略されている目的語「彼」(=アエネアス)に一致する説明的同格
 viderit:第2活用動詞video, videre, vidi, visum「見る」の接続法・能動相・完了・3人称・単数.主語はaestas
 aestas:第3変化・女性名詞aetas, aetatis, f.「夏」の単数・主格

266行 (テクストへ)

 ternaque:複数形で使われる第1・第2変化形容詞tern-i, -ae, -a「3つ毎の,3重の,3倍の,3つ一組の」中性.複数・主格.hibernaを修飾
 transierint:不規則動詞tarans-eo, -ire, -ivi (-ii), -itum「移り変わる,移動する,移行する,(時間が)経過する」の接続法・能動相・完了・3人称・複数
 Rutulis:複数で用いられる第2変化・男性名詞Rutul-i, -orum, m., pl.「ルトゥリー族」の与格
 hiberna:第1・第2変化形容詞hibern-us, -a, -um「冬の」から派生した,複数形で用いられる中性名詞「冬季陣営,冬越しの陣営」の主格で,ここでは殆ど「冬」という意味で使われている
 subactis:第3活用第1形動詞subigo, subigere, subegi, subactum「強いる,駆り立てる,狩り出す」の完了分詞・男性・複数・与格

(試訳)
これほどの心配がお前を苛んでいるから,私は言おう.さらに運命の秘密の
巻物を紐解いて,明かそう.お前の息子であるこのアエネアスは
イタリアの地で大きな戦いを敢行し,勇猛な諸部族を
征服して,その人々に法律を定め,城市を建設することになるだろう.
三年目の夏がラティウムに彼が君臨するのを見定め,
三年間の冬が戦に狩り出されたルトゥリー族に経過するまでには.
                                   (261-266行)