『アエネイス』講読
(第1巻184-194行)

テクスト

navem in conspectu nullam, tris litore cervos
prospicit errantis; hos tota armenta sequuntur     185
a tergo, et longum per vallis pascitur agmen.
constitit hic, arcumque manu celerisque sagittas
corripuit, fidus quae tela gerebat Achates;
ductoresque ipsos primum, capita alta ferentis
cornibus arboreis, sternit, tum volgus, et omnem  190
miscet agens telis nemora inter frondea turbam;
nec prius absistit, quam septem ingentia victor
corpora fundat humi, et numerum cum navibus aequet.
hinc portum petit, et socios partitur in omnes.

                        (184-194行)


語彙
184行
185行
186行
187行
188行
189行
190行
191行
192行
193行
194行


(語彙)
184行 (テクストへ)

 navem:第3変化・女性名詞nav-is, -is, f.「船」の単数・対格
 in:奪格支配の前置詞「〜において,〜(の中)で」
 conspectu:第4変化・男性名詞conspect-us, -us, m.「視野,凝視」の単数・対格
 nullam:代名詞型変化をする第1・第2変化形容詞null-us, -a, -um「無の,無い,何一つない」の女性・単数・対格.navemを修飾
 tris:不規則変化の数形容詞tres(男・女), tria(中)(属格はtrium)「3(の)」の男性・単数・対格.cervosを修飾
 litore:第3変化・中性名詞litus, litoris, n.「岸辺,海岸.前置詞無しの詩的用法「場所の奪格」
 cervos:第2変化・男性名詞cerv-us, -i, m.「鹿」の複数・対格

185行 (テクストへ)

 prospicit:第3活用第2形動詞prospicio, prospicere, prospexi, prospectum「(前方に)見る,見渡す,見通す,見つめる」の直説法・能動相・現在・3人称・単数.歴史的現在.主語はアエネアス
 errantis:第1活用動詞err-o, -are, -avi, -atum「さまよう」の現在分詞・男性・複数・対格.前行のcervosに一致
 hos:指示形容詞として用いられる指示代名詞hic, haec, hoc「これ,この」の男性・複数・対格.「鹿」を受ける
 tota:代名詞型変化をする第1・第2変化形容詞tot-us, -a, -um「全ての」の中性・複数・主格.armentaを修飾
 armenta:第2変化・中性名詞arment-um, -i, n.「(牛の,家畜の)群」の複数・主格
 sequuntur:第3活用第1形の形式受動相(能動相欠如)動詞sequor, sequi, secutus sum「〜を追いかける,〜に従う,ついて行く」の直説法・受動相(意味は能動)・現在・3人称・複数.歴史的現在.主語はarmenta

186行 (テクストへ)

 a:基本的に「分離」を意味する奪格支配の前置詞a, ab, abs「〜から」
 tergo:第2変化・中性名詞terg-um, -i, n.「背中,背後」の単数・奪格.前置詞と組み合わせにより「背後から,後ろから」
 et:接続詞「〜と,そして」
 longum:第1・第2変化形容詞long-us, -a, -um「長い」の中性・単数・主格.行末のagmenを修飾
 per:対格支配の前置詞「〜を通って,〜じゅうに」(英語のthroughに意味的に対応し,語源的に対応するイタリア語のperとは全く違う意味になる)
  vallis:第3変化・女性名詞valles (vallis), vallis, f.「谷」の複数・対格
 pascitur:第3活用第1形動詞pasco, pascere, pavi, pastum「草をはませる,餌を与える,養う,飼う」の直説法・受動相・現在・3人称・単数・歴史的現在.主語はagmen.他動詞の受動は自動詞の能動と同じ意味になるので,「(草を)はまさんれている」→「(草を)はんでいる」
 agmen:第3変化・中性名詞agmen, agminis, n.「群,列.隊列,戦列」の単数・主格.牛,もしくは羊の群が長い列になって草をはんでいる情景が描かれている

187行 (テクストへ)

 constitit:第1活用動詞costo, sonstare, consteti, (constaturus)「しっかりと立つ」の直説法・能動相・現在・3人称・単数.歴史的現在.主語はアエネアス
 hic:副詞「ここに,この時」
 arcumque:第4変化・男性名詞arc-us, -us, m.「弓」+後接の接続詞-que「〜と,そして」
 manu:第4変化・女性名詞man-us, -us, f.「手」の単数・奪格
 celerisque:第3変化形容詞celer, celeris「速い」の女性・複数・対格++後接の接続詞-que「〜と,そして」.sagittasを修飾
  sagittas:第1変化・女性名詞sagitt-a, -ae, f.「矢」の複数・対格

188行 (テクストへ)

 corripuit:第3活用第2形動詞corripio, coripere, corripui, coreptum「奪い取る,つかみ取る,つかむ」の直説法・能動相・完了・3人称・単数.主語はアエネアス
 fidus:第1・第2変化形容詞fid-us, -a, -um「忠実な,信頼できる」の男性・単数・主格.行末のAchatesを修飾
 quae:関係代名詞qui, quae, quodの中性・複数・対格.先行詞は次に出てくるtela
 tela:第2変化・中性名詞tel-um, -i, n.「投げ槍,矢」の複数・対格
 gerebat:第3活用第2形動詞gero, gerere, gessi, gestum「運ぶ」の直説法・能動相・未完了過去・3人称・単数.関係文の中の動詞で,主語はアカテス
 Achates:単数の主格と呼格のみギリシア語形の第1変化・男性名詞Achat-es, -ae, m.「(アエネアスの腹心)アカテス」(アカーテース)の単数・主格

189行 (テクストへ)

 ductoresque:第3変化・男性名詞ductor, ductoris, m.「指導者,先導者,リーダー」の複数・対格+後接の接続詞-que「〜と,そして」.三頭の先導の鹿
 ipsos:形容詞的にも用いられる指示代名詞ipse, ipsa, ipsum「〜自身,〜自体」の男性・複数・対格
 primum:副詞「まず,第一に」
 capita:第3変化・中性名詞caput, capitis, n.「頭」の複数・対格
 alta:第1・第2変化形容詞alt-us, -a, -um「高い」の中性・複数・対格
 ferentis:不規則動詞fero, ferre, tuli, latum「運ぶ,担う,耐える,生む」の現在分詞・男性・複数・対格

190行 (テクストへ)

 cornibus:第4変化・中性名詞crn-u, -us, n.「角」の複数・奪格.「描写の奪格」もしくは「性質の奪格」で頭に角が生えていて,そのおかげで頭の位置が高く見えることを説明している
 arboreis:第1・第2変化形容詞arbore-us, -a, -um「木の,木のようになっている」の中性・複数・奪格.cornibusを修飾.鹿の角が木の枝のようになっていることを形容している
 sternit:第3活用第1形動詞sterno, sternere, stravi, stratum「延ばす,広げる,平らにする,舗装する」の直説法・能動相・現在・3人称・単数.歴史的現在.主語はアエネアス
 tum:副詞「それから,その時」
 volgus:第2変化男性型の中性名詞(呼格,対格が主格と同形.複数はない)volg (vulg)-us, -i, n.「民衆,大衆」の単数・対格
 et:接続詞「〜と,そして」
 omnem:第3変化形容詞omn-is, -e「全ての」の女性・単数・対格.次行末のturbamを修飾

191行 (テクストへ)

 miscet:第2活用動詞misceo, miscere, miscui, mixtum「混ぜる,混乱させる」の直説法・能動相・現在・3人称・単数.歴史的現在.主語はアエネアス.パニックに陥れて,森の中に追い詰め,逃げ場を狭める(角が木の枝葉にひっかかって逃げにくい)ことを言っていると思われる
 agens:第3活用第1形動詞ago, agere, egi, actum「行為する,行動する,導く,駆り立てる」の現在分詞・男性・単数・主格.主語のアエネアスの副詞的同格
 telis:第2変化・中性名詞tel-um, -i, n.「投げ槍,矢」の複数・奪格.手段の奪格
 nemora:第3変化・中性名詞nemus, nemoris, n.「森」の複数・対格
 inter:対格支配の前置詞「〜の間で,〜の間に」
 frondea:第1・第2変化形容詞fronde-us,-a, -um「葉の,葉の繁る,葉の多い」の中性・複数・対格.nemora を修飾
 turbam:第1変化・女性名詞turb-a, -ae, f.「群,群集,混乱,騒動」の単数・対格

192行 (テクストへ)

 nec:否定の意味を含む接続詞「そして〜ない」
 prius:副詞「〜より早く」.quam以下のこと(目的)をするまでは,それよりも早く立ち去ることはなかった
 absistit:第3活用第1形動詞absisto, absistere, abstiti, -「立ち去る,退去する」の直説法・能動相・現在・3人称・単数.歴史的現在.主語はアエネアス
 quam:接続詞「〜よりも」
 septem:不変化の数形容詞「7(の)」.次行のcorporaを修飾
 ingentia:第3変化形容詞ingens, ingentis「巨大な,大きな」の中性・複数・対格.次行のcorporaを修飾
 victor:第3変化・男性名詞victor, victoris, m.「勝利者」.主語のアエネアスの説明的同格.「勝利者として」

193行 (テクストへ)

 corpora:第3変化・中性名詞corpus, corporis, n.「体」の複数・対格
 fundat:第3活用第1形動詞fundo, fundere, fudi, fusum「注ぐ,撒き散らす,広げる,投げる,倒す」の接続法・能動相・現在・3人称・単数.接続法・現在は「目的」を表している.主語はアエネアス
 humi:第2変化・男性名詞hum-us, -i, m.「土,大地」の単数・地格(位格)locative case.有力写本はhumoになってなっていて,与格もしくは奪格で,与格なら「〜に」,奪格なら場所の奪格.セルウィウスの古注ではhumiが採用されている
 et:接続詞「「〜と,そして」
 numerum:第2変化・男性名詞numer-us, -i, m.「数」の単数・対格
 cum:奪格支配の前置詞「〜と(共に)」
 navibus:第3変化・女性名詞nav-is, -is, f.「船」の複数・奪格
 aequet:第1活用動詞aequ-o, -are, -avi, -atum「・・と〜を等しくする,同じにする」の接続法・能動相・現在・3人称・単数.主語はアエネアス.接続法は「目的」

194行 (テクストへ)

 hinc:副詞「ここから,次に」
 portum:第4変化・男性名詞port-us, -us, m.「港」の単数・対格
 petit:第3活用第1形動詞peto, petere, petivi, petitum「求める,探す」の直説法・能動相・現在・3人称・単数.歴史的現在.主語はアエネアス
 et:接続詞「〜と,そして」
 socios:第2変化・男性名詞soci-us, -i, m.「仲間」の複数・対格
 partitur:第4活用の形式受動相(能動相欠如)動詞partior, partiri, partitus sum「分ける,分け与える」の直説法・受動相(意味は能動)・現在・3人称・単数.歴史的現在.主語はアエネアス
 in:対格支配の前置詞「〜へと,〜に対して」
 omnis:第3変化形容詞omn-is, -e「全ての」の男性・複数・対格.sociosを修飾

(試訳)
視界には一艘の船もなく,岸辺をさまよっている三頭の鹿が
見えた.これらの後に群の全頭が背後から
付き従い,長い列をなして谷じゅうで草をはんでいる.
ここにアエネアスはしっかりと立ち,手で弓と速く飛ぶ矢を
取り出した.忠実なアカテスがが持参していた飛び道具だ.
まずは先導の三頭を,木の枝のようになった角のついた頭を
高くもたげたそれらを,倒し,次に,その他の群なす鹿どもを
全て,矢を放って葉の茂る森の中へと追い立てた.
彼はその場を去らなかった,勝利者として七頭の巨大な鹿を
大地に打ち倒し,船の数に等しい獲物を得るまでは.
それから彼は港を探し,仲間たち全員に獲物を分け与えた
                                   (184-194行)