『アエネイス』講読
(第1巻162-169行)

テクスト
hinc atque hinc vastae rupes geminique minantur
in caelum scopuli, quorum sub vertice late
aequora tuta silent; tum silvis scaena coruscis
desuper horrentique atrum nemus imminet umbra.   165
fronte sub adversa scopulis pendentibus antrum,
intus aquae dulces vivoque sedilia saxo,
Nympharum domus: hic fessas non vincula navis
ulla tenent, unco non alligat ancora morsu.
                        (162-169行)


語彙
162行
163行
164行
165行
166行
167行
168行
169行


(語彙)
162行 (テクストへ)

 hinc:副詞「ここから」
 atque:接続詞「〜と,そして」
 hinc:副詞「ここから」.hinc atque hinc「ここから,そしてここから」は「あちらから,またそちらから」と考えて,「どこからも,あらゆる方向から,どこからも」という意味になり,両側に突き出た岬のある島なので,ここでは「どちらの側からも」
 vastae:第1・第2変化名詞vast-us, -a, -um「巨大な,広大な」の女性・複数・主格.rupesを修飾
 rupes:第3変化・女性名詞rup-es, -is, f.「岩,岩塊」の複数・主格
 geminique:第1・第2変化形容詞gemin-us, -a, -um「一対の,二つで一組の」の男性・複数・主格.次行のscopuliを修飾
 minantur:第1活用の形式受動相(能動相欠如)動詞min-or, -ari, -atus sum「突き出る,迫る」の直説法・能動相・現在・3人称・複数.主語はrupesとscopuli

163行 (テクストへ)

 in:対格支配の前置詞「〜へと,〜の中へと」
 caelum:第2変化・中性名詞cael-um, -i, n.「天,空」の単数・対格
 scopuli:第2変化・男性名詞scopul-us, -i, m.「岩,崖,断崖,絶壁」の複数・主格
 quorum:関係代名詞qui, quae, quodの男性・複数・属格.先行詞はscopuliもしくはrupesとscopuli
 sub:奪格支配の前置詞「〜の下に」(対格支配の場合は「〜の下へと」)
 vertice:第3変化・男性名詞「渦,竜巻,頂」の単数・奪格
 late:副詞「広く,広い範囲で」

164行 (テクストへ)

 aequora:第3変化・中性名詞aequor, aequoris, n.「平面,水面,海,海原」の複数・主格
 tuta:第1・第2変化形容詞tut-us, -a, -um「安全な,穏やかな」の中性・複数・主格.aequoraを修飾.説明的な副詞的同格と考えても良い
 silent:第2活用動詞sileo, silere, silui, -「動かない,静かである,音をたてない,黙っている」の直説法・能動相・現在・3人称・複数.関係文の動詞で,主語はaequora
 tum:副詞「それから,次に」.海から岩を見上げ,上に見える光景のさらにその先には,という視覚的推移を示す
 silvis:第1変化・女性名詞silv-a, -ae, f.「森」の複数・与格
 scaena:第1変化・女性名詞scaen-a, -ae, f.「舞台,劇場,光景,背景」の単数・主格
 coruscis:第1・第2変化形容詞corusc-us, -a, -um「揺れる,波打つ,瞬く,きらめく,輝く」の女性・複数・与格.silvisを修飾.

165行 (テクストへ)

 desuper:副詞「(その)上から」
 horrentique:第2活用動詞horreo, horrere, horrui, -「逆立つ,毛羽立つ,密生する,林立する,身震いする」の現在分詞・女性・単数・奪格.行末のumbraを修飾.「身震いする影」は「見る人が身震いするような陰鬱な影」と考える
 atrum:第1・第2変化形容詞at-er, -ra, -rum「黒い,暗い」の中性・単数・主格.nemusを修飾
 nemus:第3変化・中性名詞nemus, nemoris, n.「森」の単数・主格
 imminet:第2活用動詞immineo, imminere, - , -「突き出る,おおいかぶさる,迫る,近くにある」の直説法・能動相・現在・3人称・単数.主語はnemus
 umbra:第1変化・女性名詞umbr-a. -ae, f.「影」の単数・奪格

166行 (テクストへ)

 fronte:第3変化・女性名詞frons, frontis, f.「額,顔,正面」の単数・奪格
 sub:奪格支配の前置詞「〜の下で,〜の下に」
 adversa:第1・第2変化形容詞advers-us, -a, -um「逆の,反対の,向かい側の,敵対的な」の女性・単数・奪格.fronteを修飾.船が向かっていくと,その正面に見える崖の下方に
 scopulis:第2変化・男性名詞scopul-us, -i, m.「岩,崖,断崖,絶壁」の複数・奪格.この奪格は「性質の奪格」もしくは「素材の奪格」で断崖絶壁の地形によって形成された洞窟があって,それを入っていくと,天然の良港になっていることを描写している
 pendentibus:第2活用動詞pendeo, pendere, pependi, -「下がる,ぶら下がる,中断状態である」の現在分詞・男性・複数・奪格.scopulisを修飾
 antrum:第2変化・中性名詞antr-um, -i, n.「洞窟」の単数・主格

167行 (テクストへ)

 intus:副詞「中で,内部で,中には,内部には」
 aquae:第1変化・女性名詞aqu-a, -ae, f.「水」の複数・主格
 dulces:第3変化形容詞dulc-is, -e「甘い,甘美な,やさしい,心地よい」の女性・複数・主格.aquaeを修飾
 vivoque:第1・第2変化形容詞viv-us, -a, -um「生きた,生き生きした,自然のままの,天然の」の中性・単数・奪格+後接の接続詞-que「〜と,そして」.行末のsaxoを修飾
 sedilia:第3変化・中性名詞sedil-e, -is, n.「座,場所,ありか,椅子」の複数・主格.船が停泊できる場所を意味していると考える
 saxo:第2変化・中性名詞sax-um, -i, n.「岩,石」の単数・奪格.「性質の奪格」もしくは「素材の奪格」で「自然の石でできた座る場所」があることを言っている.「天然の石」とはどこかから切り出してきて加工した「死んだ」石ではなく,そこにもともとあって,そのままで使われてることであろう

168行 (テクストへ)

 Nympharum:第1変化・女性名詞Nymph-a, -ae, f.「ニュンパ,ニンフ.女神よりの神格の低い,妖精のような女性の神的存在」の複数・属格
 domus:所々に第2変化形が現れる不規則な第4変化・女性名詞dom-us, -us, f.「家」の単数・主格.ニンフたちも住処にするほど神秘的な雰囲気を持った場所ということだろう
 hic:副詞「ここで,ここに」
 fessas:第1・第2変化形容詞fess-us, -a, -um「疲れた,疲弊した」の女性・複数.navisを修飾
 non:否定の副詞「〜でない」.次行のullaと連動して,nullaの意味になり,vinculaを否定して,「いかなる鎖(縄)も〜しない」
 vincula:第2変化・中性名詞vincul-um, -i, n.「鎖,縄,縛め,絆,(複数で)牢獄」の複数・主格
 navis:第3変化・女性名詞nav-is, -is, f.「船」の複数・対格(navesと同じ).単数・主格や属格と同じナーウィスではなく,ナーウィースとなる

169行 (テクストへ)

 ulla:代名詞型変化をする第1・第2変化形容詞ull-us, -a, -um「いかなる〜も」の中性・複数・主格.前行のnonと連動して,null-us, -a, -um「いかなる〜も・・ない」の意味になる
 tenent:第2活用動詞teneo, tenere, tenui, tentum「保つ,保持する,とどめる」の直説法・能動相・現在・3人称・複数.主語は前行のvincula
 unco:第1・第2変化形容詞unc-us, -a, -um「鍵状になった,鍵の,ひっかかる」の男性・単数・奪格.行末のmorsuを修飾
 non:否定の副詞「〜でない」
 alligat:第1活用動詞allig-o, -are, -avi, -atum「つなぐ,つなぎとめる」の直説法・能動相・現在・3人称・単数.主語はancora
 ancora:第1変化・女性名詞ancor-a, -ae, f.「錨」」の単数・主格
 morsu:第4変化・男性名詞mors-us, -us, m.「噛むこと,ひっかけること,刺すこと」の単数・奪格

 ※天然の良港なので,鍵形になった錨も舫い綱も必要のない状態で,航海に疲れた船が停泊できることを言っているのであろう.

(試訳)
両側から,巨大な岩塊と一対の断崖絶壁が天へと
せり出し,その頂の下に広い範囲に渡って,
海が穏やかに静まっている.そこから上方には,葉の揺れる森がある
風景が広がり,陰鬱な影で暗い森が迫っている.
湾頭には,落ちかかる断崖にできた洞窟があり,
内部は穏やかな水と,天然の石でできた停泊地があり,
ニンフたちの家でもある.ここでは,疲れた船を繋ぐのは,
綱ではなく,鍵形でひっかけて錨が繋ぎ泊めるのでもない.
                                   (162-169行)