『アエネイス』講読
(第1巻131-136行)

テクスト

Eurum ad se Zephyrumque vocat, dehinc talia fatur:
"Tantane vos generis tenuit fiducia vestri?
Iam caelum terramque meo sine numine, venti,
miscere, et tantas audetis tollere moles?
quos ego - ! sed motos praestat componere fluctus.  135
post mihi non simili poena commissa luetis.

                        (131-136行)


語彙
131行
132行
133行
134行
135行
136行


(語彙)

131行 (テクストへ)

 Eurum:第2変化・男性名詞Eur-us, -i, m.「南東風(の神)」の単数・対格
 ad:対格支配の前置詞「〜へと」
 se:文の動詞の主語と同じものを表す再帰代名詞の対格.ここではネプトゥヌスを指す
 Zephyrumque:第2変化・男性名詞Zephyr-us, -i, m.「西風(の神)」の単数・対格
 vocat:第1活用動詞voc-o, -are, -avi, -atum「呼ぶ」の直説法・能動相・現在・3人称・単数.主語はネプトゥヌス.歴史的現在なので,意味は過去
 dehinc:副詞「ここから,今から,次に,それから」.デー・ヒンクと2音節語で,実際にウェルギリウスにおいても2音節語であることもあるが,ここでは韻律上,257行と同様に1音節語である(ウィリアムズ).その場合「ディンク」のように読んだのか,デー・ヒンクと読んで韻律上は1音節と了解していたのは,少なくとも私にはわからない
 talia:第3変化形容詞tal-is, -e「このような,これほどの,そのような,それほどの」の中性・複数・対格が名詞化して「このようなこと,以下のこと」の意味
 fatur:第1活用の形式受動相(能動相欠如)動詞f-or, -ari, -atus sum「言う,語る」の直説法・受動相(意味は能動)・現在・3人称・単数.主語はネプトゥヌス.歴史的現在なので,意味は過去

132行 (テクストへ)

 Tantane:第1・第2変化形容詞tant-us, -a, -um「これほどの」の女性・単数・主格.同行のfiduciaを修飾.ここでは「一体どんな,どれほどの」という疑問形容詞として使われている
 vos:2人称・複数の人称代名詞vosの対格
 generis:第3変化・中性名詞genus, generis, n.「生まれ,出自,家系,種類,種族,一族」の単数・属格
 tenuit:第2活用動詞teneo, tenere, tenui, tentum「保つ,保持する」の直説法・能動相・完了・3人称・単数.主語はfiducia
 fiducia:第1変化・女性名詞fiduci-a, -ae, f.「信頼,自信,自負」の単数・主格.「お前たちの出自への自負」は,風の神々がティタン(ティーターン)神族のアストライオスと曙の女神エオス(エーオース)の子である(ヘシオドス『神統記』378行以下)からだろうか(Cf.ウィリアムズ)
 vestri:第1・第2変化の所有形容詞vest-er, -ra, -rum「あなた方の,お前たちの」の中性・単数・属格.generisを修飾

(解釈)
 お前たちの家系へのこれほどの信頼が,お前たちを保持(支配)したのか
 →「お前たちは自分の血筋を過信して(分際をわきまえず),こんな越権行為をしたのか」

133行 (テクストへ)

 Iam:副詞「今や,ついに,さあ,既に」
 caelum:第2変化・中性名詞cael-um, -i, n.「天,空」の単数・対格
 terramque:第1変化・女性名詞terr-a, -ae, f.「大地」の単数・対格+後置の接続詞-que「〜と,そして」
 meo:第1・第2変化の所有形容詞me-us, -a, -um「私の」の中性・単数・奪格.numineを修飾
 sine:奪格支配の前置詞「〜なしで」
 numine:第3変化・中性名詞numen, numinis, n.「神威,神意,神格,神能」の単数・奪格
 venti:第2変化・男性名詞vent-us, -i, m.「風」の複数・呼格

134行 (テクストへ)

 miscere:第2活用動詞misceo, miscere, miscui, mixtum「混ぜる,混乱させる」の不定法・能動相・現在
 et:接続詞「〜と,そして」
 tantas:第1・第2変化形容詞tant-us, -a, -um「これほどの」の女性・複数・対格.同行のmolesを修飾
 audetis:第2活用動詞audeo, audere, ausus sum(半能動相欠如動詞semideponentiaで,完了系は受動相の形で意味が能動相になる)「敢えて〜する」(+不定法)の直説法・能動相・現在・2人称・複数
 tollere:第3活用第1形動詞tollo, tollere, sustuli, sublatum「持ち上げる,支える,持ち去る,取り去る,破壊する」の不定法・能動相・現在
 moles:第3変化・女性名詞moles, molis, f.「塊,重さ,力,労苦,困難」の複数・対格

135行 (テクストへ)

 quos:疑問代名詞quis, quid「誰?何?」の男性・複数・対格
 ego:1人称・単数の人称代名詞ego「私」の主格
 sed:接続詞「だが,しかし」
 motos:第2活用動詞moveo, movere, movi, motum「動かす,駆り立てる,掻き立てる」の完了分詞・男性・複数・対格
 praestat:第1活用動詞praesto, praestare, praestiti, praestitum「傑出する,すぐれる,目立つ,示す,証明する」の直説法・能動相・現在・3人称・現在.この動詞は非人称動詞として使われ,+不定法で「〜する方が良い」の意味になる.
 componere:第3活用第compono, componere, composui, compositum「置く,集める,構築する,鎮める」の不定法・能動相・現在
 fluctus:第4変化・男性名詞fluct-us, -us, m.「波,流れ」の複数・対格

(解釈)
 quos ego!:テクストによっては疑問文になっているが,その場合で修辞疑問で,感嘆文の場合と意味に大差はないように思う.性別のある複数形であえて男性形にしているので,「風の神」たちのうち,誰をまずどうにかしようかという風にも考えられるが,最初の答えとして用意されている「まず波を鎮める」の「波」が男性・複数・対格なので,そのことが念頭にあると考えてもよいだろうし,それらを含んで様々なことうちから,一体「誰を,何を」どうしようか?と言っていると思われる.答えとして「波を鎮め,風の神たちを罰する」ことが次に挙げられているのはその具体的な内容を指している.動詞がないので完全な文章ではなく,修辞学上の用語でaposisopesis(リーダーズ英和辞典の訳語では「頓絶法」とあり,「文を中途でやめること」と説明してある)と言われる

136行 (テクストへ)

 post:対格支配の前置詞「〜の後で」もしくは副詞で「その後」.ここでは後者
 mihi:1人称・単数の人称代名詞ego「私」の与格.「私への」罪とも,「私に対して」償う,とも取れる
 non:否定の副詞「〜でない」.ここでは直後のsimiliを否定
 simili:第3変化形容詞simil-is, -e「似ている,同じような」の女性・単数・奪格
 poena:第1変化・女性名詞poen-a, -ae, f.「罪,罰」
 commissa:第3活用第1形動詞committo, commitere, commisi, commissum「結びつける,委ねる,任せる,犯罪を犯す」の完了分詞・中性・複数・対格.ここでは名詞化して「罪,犯罪」
 luetis:第3活用第1形動詞luo, luere, lui, -「贖う,罪を償う,罰を受ける」の直説法・能動相・現在・2人称・複数

(試訳)
南東風の神,西風の神を呼んで,それから次にように言った.
 お前たちは血筋を過信して,これほどのことをしたのか?
風の神どもよ,神である私をないがしろにして,今お前たちは天と
地を混乱に陥れ,これほどの騒乱を敢えて引き起こしている.
私は何をどうすれば良いのか?まず掻き立てられた波を鎮めるのが良い.
その後で,前例のない罰でお前たちは私への罪をつぐなうのだ.
                               (131行-136行)