『アエネイス』講読
(第1巻76-80行)
テクスト
 Aeolus haec contra: "tuus, o regina, quid optes,
explorare labor; mihi iussa capessere fas est.
tu mihi quodcumque hoc regni, tu sceptra Iovemque
concilias, tu das epulis accumbere divum,
nimborumque facis tempestatumque potentem." 80
                           (76-80)


語彙
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80行

(語彙)

76行 (テクストへ

 Aeolus:第2変化・男性名詞Aeol-us, -i, m.「(風の神)アエオルス」の単数・主格.省略されている動詞「言う」もしくは「言った」の主語
 haec:指示代名詞hic, haec, hoc「これ,この」の中性・複数・対格.以下に述べる内容を指している
 contra:副詞「これ(ユノーが言ったこと)に答えて,対して」
 tuus:所有形容詞tu-us, -a, -um「あなたの」の男性・単数・主格.「務め,仕事」を修飾
 o:呼びかけの間投詞
 regina:第1変化・女性名詞regin-a, -ae, f.「女王」の呼格
 quid:疑問代名詞quis, quid「誰,何」の中性・単数・対格「何を」
 optes:第1活用動詞opt-o, -are, -avi, -atum「選ぶ,望む,欲する」の接続法・能動相・現在・2人称・単数.接続法は間接疑問文なので用いられている.間接疑問文「あなたが何を望むか」は次行の不定法「調べる」の目的語(名詞節)になっている

77行 (テクストへ

 explorare:第1活用動詞explor-o, -are, -avi, -atum「調べる,検証する,精査する,探求する」の不定法・能動相・現在.この文の主語
 labor:第3変化・男性名詞labor, laboris, m.「仕事,務め,労苦」の単数・主格.この文の主格補語
 mihi:人称代名詞ego「私」の与格
 iussa:第2活用動詞iubeo, iubere, iussi, iussum「命じる,命令する」の完了分詞が名詞化した第2変化・中性名詞iuss-um, -i, n.「命令」」の複数・対格.「あなた(ユノー)の命令」
 capessere:第3活用第1形動詞capesso, capessere, capessivi, capessitum「把握する,理解する,引き受ける,従事する」の不定法・能動相・現在
 fas est:不変化の中性名詞「神聖な定め」とsum動詞の組み合わせで,非人称的な表現になり,不定法を取って「〜することは正しい,義務である,〜しなければならない」という意味になる.行為者は与格で表される.「・・・にとって〜することは正当(義務)である」

78行 (テクストへ

 tu:人称代名詞「あなた」の主格
 mihi:人称代名詞ego「私」の与格
 quodcumque:不定関係代名詞quicumque, quaecumque, quodcumque「〜するものは何でも」の中性・単数・対格
 hoc:指示代名詞hic, haec, hoc「これ,この」の中性・単数・主格.名詞の属格とともに「〜のこれ」→「この〜」となるのはラテン語の代名詞の特徴的用法
 regni:第2変化・中性名詞regn-um, -i, n.「王権」の単数・属格.指示代名詞と結合して「王権のこれ」=「この王権」さらに不定関係代名詞(estの省略を念頭に置く)とともに「この王権であるものは何でも」=「この王権の全て」
 sceptra:第3変化・中性名詞sceptr-um, -i, n.「王笏」の複数・対格(「韻律の理由」による「単数の代わりの複数」)
 Iovemque:第3変化を基本とする不規則変化名詞Iuppiter, Iovis「(神々の王)ユピテル」の単数・対格+等位接続詞-que「と,そして」.ここで「王笏とユピテル」は「私の王笏と(それを認める)ユピテル(の愛顧)」という意味

79行 (テクストへ

 concilias:第1活用動詞concili-o, -are, -avi, -atum「和解させる,勝ち取る,もたらす,獲得する」の直説法・能動相・現在・2人称・単数.主語の「あなた」は「ユノー」
 tu:人称代名詞「あなた」の単数・主格
 das:第1活用を基本とする不規則動詞do, dare, dedi, datum「与える」の直説法・能動相・現在・2人称・単数.+不定法で「〜することを認める,許す」
 epulis:第2変化・中性名詞epul-um, -i, n.「饗宴,食事」の複数・与格
 accumbere:第3活用第1形動詞accumbo, accumbere, accubui, accubitum「宴席に連なる,食卓の寝椅子に横たわる」(ローマの上流階級の宴会は長椅子に横たわる)
 divum:第2変化を基本とする不規則変化・男性名詞de-us, -i, m.「神」の複数・属格deorum=deumの代用形

80行 (テクストへ

 ninborumque:第2変化・男性名詞nimb-us, -i, m.「雲,黒雲,雨雲」の複数・属格+等位接続詞「〜と,そして」
 facis:facio, facere, feci, factum「作る,なす,する」の直説法・能動相・現在・2人称・単数
 tempestatumque:第3変化・女性名詞tempestas, tempestatis, f.「嵐」の複数・属格+等位接続詞-que「〜と,そして」
 potentem:第3変化形容詞potens, potentis「力ある,〜を支配する(+属格)」.省略されている目的語「私を」の目的格補語と考える

(試訳)
 アエオルスはこれに答えて言った.「女王よ,ご自身が何をお望みかを探し出すのが
あなたのお務めです.私には許されているのは,ご命令を実行することです.
あなたは私に,この王権の全てを,王笏とユピテル様のご愛顧を
得て下さいました.神々の宴席に私が連なることもお許し下さいましたし,
私が雨雲と嵐を支配するようはからって下さいました.                  80
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