『アエネイス』講読 (第1巻65-75行) |
(テクスト)
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(語彙) 65行 (テクストへ) Aeole:第2変化男性名詞Aeol-us, -i, m.「(風の神)アエオルス」の単数・呼格 namuque:理由を示す従位接続詞「(というのも)〜だから,なので」(=nam) tibi:2人称・単数の人称代名詞tu「あなた,お前,君」の与格 divum:第1・第2変化形容詞div-us, -a, -um「神聖な」からできた形だが,不規則な第2変化・男性名詞de-us, -i, m.「神」の複数・属格deorumの別形として使われているので,意味は「神々の」 pater:第3変化・男性名詞(子音幹)pater, patris, m.「父」の単数・主格 atque:等位接続詞「〜と,そして」 hominum:第3変化・男性名詞homo, hominis, m.「人,人間」の複数・属格 rex:第3変化・男性名詞rex, regis, m.「王」の単数・主格 |
66行 (テクストへ) et:等位接続詞「〜と,そして」だが,同じ行のetと呼応して「〜も〜も」 mulcere:第2活用動詞mulceo, mulcere, mulsi, mulsum「撫でる,宥める,喜ばせる」の不定法・能動相・現在 dedit:第1活用を基本とする不規則動詞do, dare, dedi, datum「与える」の直説法・能動相・完了・3人称・単数(主語はユピテル).この場合,不定法と結びついて「〜する権能を与える,〜することを許す,認める,〜させる」 fluctus:第4変化・男性名詞fluct-us, -us, m.「波,うねり」の複数・対格 tollere:第3活用・第1形動詞tollo, tollere, sustuli, sublatum「持ち上げる,起こす,取り除く,破壊する」の不定法・能動相・現在.deditに支配されている. vento:第2変化・男性名詞vent-us, -i, m.「風」の単数・奪格.「手段の奪格」 |
67行 (テクストへ) gens:第3変化・女性名詞gens, gentis, f.「種族,部族,民族」の単数・対格 inimica:第1・第2変化形容詞inimic-us, -a, -um「敵対する,憎い」 mihi:人称代名詞ego「私」の単数・与格.「利害の与格」 Tyrrhenum:第1・第2変化形容詞「テュルヘニー族の」.テュルヘニー族はエトルリア人の別名.ここでは同行の最後の語「海」を修飾して現代の「テュレニア海」を意味し,イタリア半島,コルシカ島,サルディニア島,シチリア島に囲まれた海のことを言う navigat:第1活用動詞navig-o, -are, -avi, -atum「航海する」の直説法・能動相・現在・3人称・単数 aequor:第3変化・中性名詞aequor, aequoris, n.「水平面,平野,海」.ここでは海の意味 |
68行 (テクストへ) Ilium:第2変化・中性名詞Ili-um, -i, n.「イリウム(ギリシア語ではイリオン)=トロイア」の単数・対格.「イリオンと打ち負かされた家神」で,二語一意(hendiadys) になっており,大体「ギリシア軍よって落城したトロイアの町の守護神」という意味になる.アエネアスがトロイアから運んだこの神が後にローマの守護神になるとされる. in:対格支配の前置詞「〜(の中)へと」 Italiam:第1変化・女性名詞Itali-a, -ae, f.「イタリア」の単数・対格 portans:第1活用動詞port-o, -are, -avi, -atum「運ぶ」の現在分詞・男性・単数・主格 victosque:第3活用第1形動詞vinco, vincere, vici, victum「勝つ,破る,征服する」の完了分詞・男性・複数・対格+等位接続詞-que「〜と,そして」 Penatis:複数で用いられる第3変化・男性名詞Penat-es, -ium, m.pl.「家の守護神→国家の守護神」.= Penates |
69行 (テクストへ) incute:第3活用第2形動詞incutio, incutere, insussi, incussum「打つ,叩く,打ち込む,吹き込む,注入する,押し付ける」の命令法・現在・2人称・単数 vim:不規則な第3変化・女性名詞vis, f.「力」の単数・対格 ventis:第2変化・男性名詞vent-us, -i, m.「風」の複数・与格 submersasque:第3活用第1形動詞submergo (summergo), submergere, submersi, submersum「沈める」の完了分詞・女性・複数・対格.「船」を修飾するのは言うまでもないが,「沈められた船を打ち壊せ」は「船を打ち壊して沈めろ」という意味で,動作の対象となる目的語の修飾語が結果を先取りしている.ラテン語ではよく用いられる語法 obrue:第3活用第1形動詞obruo, obruere, obrui, obrutum「覆う,隠す,埋める,圧倒する,押しつぶす,打ち壊す」の命令法・現在・2人称・単数 puppis:第3変化・女性名詞puppis, puppis「船」の複数・対格.= puppes |
70行 (テクストへ) aut:等位接続詞「〜か,または」 age:第3活用第1形動詞ago, agere, egi, actum「導く,駆り立てる,目的語を補語の状態にする」の命令法・能動相・現在・2人称・単数 diversos:第1・第2変化形容詞divers-us, -a, -um「反対の,違う,別の,離れている,バラバラの」の男性・複数・対格.ここでは省略されている目的語「彼ら=トロイア人」の目的格補語になっている et:等位接続詞「〜と,そして」ここでは2つの動詞(命令法)を連結 disice:第3活用第1形動詞disicio, disicere, disieci, disiectum「バラバラにする,ばら撒く」の命令法・能動相・現在・2人称・単数 corpora:第3変化・中性名詞corpus, corporis, n.「体」の複数・対格.トロイア人たちの体を意味している ponto:第2変化・男性名詞pont-us, -i, m.「海」の単数・与格もしくは奪格.与格の場合は「海に」,奪格の場合は前置詞inが省略された「海で」と考える.前者と取りたいが,ある注釈(Gould&Whitely)には奪格とある |
71行 (テクストへ) sunt:不規則動詞sum, esse, fui, (futurus)「ある,〜である」(英語のbe動詞)の直説法・能動相・現在・3人称・単数.主語は「ニンフたち」 mihi:人称代名詞ego「私」の与格 bis:副詞「二重に,二倍に」 septem:不変化の数形容詞「七」.「二倍に七」で「十四」を意味する praestanti:第1活用動詞praestare, praestare, praestiti, praestitum「すぐれる,目立つ,傑出する」の現在分詞・中性・単数・奪格(形容詞的なので純粋i幹的) corpore:第3変化・中性名詞corpus, corporis「体」の単数・奪格.「傑出した体の」という「描写の奪格」で「ニンフ」を修飾.まじめに考えると「体が大きい」ことはギリシア的,叙事詩的美観から見たときそれだけ神に近いということとも考えられるが,少し卑俗な言い方になっても現代的な意味で「いい体をしている」でも良いように思えるがどうだろう Nymphae:第1変化・女性名詞nymph-a, -ae, f.「ニンフ,女性の半神,妖精」の複数・主格.ここではユノーの侍女たち |
72行 (テクストへ) quarum:関係代名詞のqui, quae, quodの女性・複数・属格.先行詞は「ニンフたち」で,最上級とともに「彼女たちのうちで最も」という意味の「部分の属格」 quae:関係代名詞の女性・単数・主格.先行詞は後出のデイオペイア.関係文では動詞est「〜である」が省略 forma:第1変化・女性名詞form-a, -ae, f.「姿,形,美しさ」の単数・奪格.「容姿の点で」 pulcherrima:第1・第2変化形容詞pulcher, pulchra, pulchrum「美しい」の最上級・女性・単数・主格 Deiopeia:第1変化・女性名詞Deiopei-a, -ae, f.「デイオペイア」の単数・主格.韻律の上からは五脚(長・短・短)と六脚(長・短)を構成し,デー・イ・オ/ペイ・アとなり,-ei-は二重母音として長母音の1音節として扱う |
73行 (テクストへ) conubio:第2変化・中性名詞conubi-um, -i, n.「婚姻,結婚,婚礼」の単数・奪格.「手段の奪格」 iungam:第3活用第1形動詞iungo, iungere, iunxi, iunctum「結ぶ,娶わせる」の直説法・能動相・未来・1人称・単数.直接目的語の「彼女を」と,間接目的語の「おまえに」は省略されている satabili:第3変化形容詞stabil-is, -e「確かな,安定した」の中性・単数・奪格.「婚姻」を修飾 propriamque:第1・第2変化形容詞propri-us, -a, -um「固有の,その人の(もの)」の女性・単数・対格.省略されている目的語デイオペイアの副詞的同格.「デイオペイアをおまえだけのものとして進呈しよう」とアエオルスに向かってユノーが言っている dicabo:第1活用動詞dic-o, -are, -avi, -atum「捧げる,献呈する,進呈する」の直説法・能動相・未来・1人称・単数 |
74行 (テクストへ) omnis:第3変化形容詞omn-is, -e「全ての」の男性・複数・対格.行末の「年月」を修飾.=omnes ut:目的(〜するように)・結果(結果として〜することになる)の副詞節を導く従位接続詞(動詞は接続法) tecum:人称代名詞tu「あなた,おまえ」の奪格+奪格支配の前置詞cum「〜とともに」(人称代名詞との組み合わせでは後置されて一語のように綴る) meritis:第2変化・中性名詞merit-um, -i, n.「功績,奉仕」(「値する」という動詞の完了分詞からつくった名詞なので,反対の「罪,欠点」という意味もある)の複数・奪格.修飾する形容詞との間にはさまれた前置詞に支配されている pro:奪格支配の前置詞「〜のために,〜ゆえに」 talibus:第3変化形容詞tal-is, -e「このような,そのような,これほどの」 annos:第2変化・男性名詞ann-us, -i, m.「年,年月,歳月」の複数・対格(次行の動詞の目的語と考えるか,「期間」を表す「延長の対格」と考えるか.後者も捨てがた いが,前者を採る).一行を「全ての」と「年月」で囲んでいるのは意図的な修辞技法と思われる |
75行 (テクストへ) exigat:第3活用第1形動詞exigo, exigere, exegi, exactum「全うする,生き抜く」(意味は多様)の接続法・能動相・現在・3人称・単数(主語はデイオペイア) et:等位接続詞「〜と,そして」.ここでは従属節中の動詞を連結 pulchra:第1・第2変化形容詞pulcher, pulchra, pulchrum「美しい」の女性・単数・奪格.「子孫」を修飾 faciat:第3活用・第2形動詞facio, facere, feci, factum「作る,〜(目的語)を・・・(目的格補語)にする」の接続法・能動相・現在・3人称・単数 te:人称代名詞tu「あなた,おまえ」の対格 prole:第3変化・女性名詞proles, prolis, f.「子孫」(集合的)の単数・奪格.「子孫によって父親にする」なので「手段の奪格」と考える parentem:男女共通の第3変化名詞parens, parentis, mf.「親,父親(男性),母親(女性),両親(複数)」の単数・対格.ここでは「おまえ」の目的格補語で,「おまえ」はアエオルスで男性なので「父親」の意 |
(試訳)
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