1.第3変化形容詞(概説)
2.第3変化形容詞(i幹で単数・主格が三性異形)
3.第3変化形容詞(i幹で単数・主格が男女同形)
4.第3変化形容詞(i幹で単数・主格が三性同形)
5.第3変化形容詞(子音幹)
6.形容詞と名詞の変化の例
7.前回の「練習」解答と今回の「練習」
※第3変化形容詞(概説)
前回,
(以下,引用)
Et exultavit spiritus meus in
Deo salutari
meo.
salutariを名詞「救世主」と考えることもできるが,その場合奪格が-iで終わっていることが,若干気になるので,とりあえず形容詞「救いの,人々を救う」と考えて,その変化を見てみる
|
単 数 |
複 数 |
|
男・女性 |
中性 |
男・女性 |
中性 |
主格 |
salutaris |
salutare |
salutares |
salutaria |
呼格 |
salutaris |
salutare |
salutares |
salutaria |
属格 |
salutaris |
salutaris |
salutarium |
salutarium |
与格 |
salutari |
salutari |
salutaribus |
salutaribus |
対格 |
salutarem |
salutare |
salutares |
salutaria |
奪格 |
salutari |
salutari |
salutaribus |
salutaribus |
これは「第3変化形容詞」の変化である.これを説明するためには,「第3変化名詞」から説明しなければならない.
(以上,引用)
と書き出して,第3変化名詞を一通り説明した.既に,上の「救いの」が第3変化形容詞の変化表になっているが,改めて別の形容詞でやって見る.
第3変化形容詞も変化の特徴から,i幹と子音幹に分類されるが,それらの違いを留保して,大部分の形容詞は名詞で言えば
1.純粋i幹名詞の特徴(但し,単数・対格は-em)
単数・奪格が-i
複数・属格が-ium
となるものが大部分で,一部の例外的な(但し,重要語)形容詞が,
2.子音幹名詞の特徴
単数・奪格が-e
複数・属格が-um
となる,と考えた方が当面は実践的なので,第3変化形容詞全体では,まずこの二つの分類で考え,さらに殆どの前者の分類に属する形容詞を,目安として,まず三つのタイプに分けてみる.
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※第3変化形容詞(i幹で単数・主格が三性異形)
(1)単数・主格の男性形,女性形,中性形がそれぞれ異なる形
第3変化形容詞「鋭い」
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単 数 |
複 数 |
|
男性 |
女性 |
中性 |
男性 |
女性 |
中性 |
主格 |
acer |
acris |
acre |
acres |
acres |
acria |
呼格 |
acer |
acris |
acre |
acres |
acres |
acria |
属格 |
acris |
acris |
acris |
acrium |
acrium |
acrium |
与格 |
acri |
acri |
acri |
acribus |
acribus |
acribus |
対格 |
acrem |
acrem |
acre |
acres |
acres |
acria |
奪格 |
acri |
acri |
acri |
acribus |
acribus |
acribus |
このタイプは見かけ上,単数・主格が3性それぞれ違うので,たとえば辞書登録の形は,第1・第2変化形容詞と同じように,単数・主格を男性,女性,中性の順に並べ,
acer, acris, acre
または,
ac-er, -ris, -re
のようになる.この場合,第1・第2変化・男性名詞や形容詞で,男性・単数・主格が-erで終わるものを思い出すと,その場合-e-が残るタイプとおちるタイプがあったように,第3変化形容詞の場合も実は-e-が残るタイプと落ちるタイプがあり,「鋭い」は落ちるタイプである.一方,たとえば「速い」などは残るタイプで,辞書登録形は,
celer, cleris, celere
または,
cel-er, -eris, -ere
となる.
だが,このタイプはこの-e-が残るか落ちるかに気をつければ,よくみると実は単数の・主格と呼格を除けば,男性と女性は全くの同形である.したがって,事実上,男性・単数の主格と呼格に注意すれば,次のタイプの形容詞と同じと考えてよい.
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※第3変化形容詞(i幹で単数・主格が男女同形)
(2)単数・主格の男性と女性が同形で,中性のみ異なる場合
第3変化形容詞「甘い,甘美な,やさしい,美しい,愛しい」
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単 数 |
複 数 |
|
男・女性 |
中性 |
男・女性 |
中性 |
主格 |
dulcis |
dulce |
dulces |
dulcia |
呼格 |
dulcis |
dulce |
dulces |
dulcia |
属格 |
dulcis |
dulcis |
dulcium |
dulcium |
与格 |
dulci |
dulcibus |
dulcibus |
dulcibus |
対格 |
dulcem |
dulce |
dulces |
dulcia |
奪格 |
dulci |
dulcibus |
dulcibus |
dulcibus |
この変化表は,冒頭に引用した前回分の変化表「救いの」と同じである.男女同形であるばかりでなく,よく見ると,中性も,男性・単数・属格が別形であることさえわかれば,後は「中性の特徴」(単数でも,複数でもそれぞれ主格,呼格,対格が同形.複数の主格,呼格,対格は-a,i幹の場合は-iaで終わる終わる)があてはまるところ以外は,男性,女性と同じであることがわかる.
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※第3変化形容詞(i幹で単数・主格が三性同形)
(3)単数・主格が男性,女性,中性とも同形
第3変化形容詞「幸福な」
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単 数 |
複 数 |
|
男・女性 |
中性 |
男・女性 |
中性 |
主格 |
felix |
felix |
felices |
felicia |
呼格 |
felix |
felix |
felices |
felicia |
属格 |
felicis |
felicis |
felicium |
felicium |
与格 |
felici |
felici |
felicibus |
felicibus |
対格 |
felicem |
felix |
felices |
felicia |
奪格 |
felici |
felici |
felicibus |
felicibus |
このタイプは,中性・単数・主格も男性,女性と同形だが,変化全体で見ると「中性の特徴」が適応される箇所では単数の主格と呼格以外では,男性形,女性形と異なる.しかし,これも「中性の特徴」を踏まえていれば容易に男性・女性形からつくることが出来る.
複数の主格,呼格,対格が-iaで終わる形になるのは,i幹変化をする第3変化形容詞のその他のタイプと同様だが,このタイプで特に注意が必要なのは中性・単数.対格が主格と同じ(と言うことは男性,女性の単数・主格とも同形)という点であろう.この形で対格というのはやや奇異に思えるが,主格,呼格,対格が同形になるという「中性の特徴」が優先される結果である.
このタイプの形容詞の辞書登録の形は,単数・主格が3性同形なので,それらを並べる意味がないから,名詞と同じく単数・主格と単数・属格を並記して変化形を類推させ,形容詞であることを明記する.たとえば,
felix, felicis, adj.(adjective=形容詞)
もしくは,
feli-x, feli-cis, adj.
のように記される(但し,当然ながらアクセントは示されず,長音記号macronは上に書く).
以上,第3変化形容詞のうち,名詞の純粋i幹と同じ変化(単数・奪格-i,複数・属格-ium,但し,単数の対格は-em)をする形容詞に関して,(1)〜(3)と三つのタイプに分類したが,いずれの場合も,「中性の特徴」に気をつければ,3性ともに同じような変化をする.(1)の場合に単数・主格と呼格が異なる以外は全て男女同形であり,第1・第2変化形容詞の場合と同じく,「中性の特徴」以外の箇所は中性形は男性形と同形となる.
(3)のタイプは実は子音幹であるが,ここではあくまでも変化形に注目して,i幹タイプの変化をする形容詞に分類する.このタイプに属する形容詞は多くの場合,語尾が
-xで終わるもの
audax, audacis「大胆な」
capax, capacis「広い,受容力のある」
edax, edacis「大食の」
ferox, ferocis「勇猛な」
mendax, mendacis「嘘つきの」
simplex, simplicis「単純な」
-ansまたは-ensで終わるもの
(これらは多くの場合,もともとは後日学ぶ動詞の現在分詞である.「〜する人」と名詞的に使われる場合,単数・奪格は-eになる)
arrogans, arrogantis「傲慢な」
innocens, innocentis「無罪の,無垢な」
nocens, nocentis「有罪の,罪深い」
prudens, prudentis「思慮深い」
sapiens, sapientis「賢い」
である.
第3変化形容詞の中には,実際に子音幹であり,変化としても名詞で言えば子音幹のタイプの変化をする少数の,しかし使用頻度の高い語が存在し,これらを便宜上「子音幹形容詞」と称する.その変化は以下のようになる.
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※第3変化形容詞(子音幹)
第3変化形容詞vetus, veteris「古い,年取った」
(この語から派生したveteranus「古参兵,老兵」が英語のveteranの語源)
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単 数 |
複 数 |
|
男・女性 |
中性 |
男・女性 |
中性 |
主格 |
vetus |
vetus |
veteres |
vetera |
呼格 |
vetus |
vetus |
veteres |
vetera |
属格 |
veteris |
veteris |
veterum |
veterum |
与格 |
veteri |
veteri |
veteribus |
veteribus |
対格 |
veterem |
vetus |
veteres |
vetera |
奪格 |
vetere |
vetere |
veteribus |
veteribus |
このタイプの語としては
dives, divitis「富裕な」がある.
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※形容詞と名詞の変化の例
★第3変化形容詞について整理すると,殆どの形容詞は名詞でいえば,純粋i幹のタイプの変化(但し,単数・対格は-em)をし,単数・主格の形によって三つのタイプに分類されるが,「中性の特徴」以外のところでは,3性とも大体同じ形の格変化をする.
これを踏まえて,一つの熟語と,二つの格言(的表現)を検討する.
1.homo sapiens「ホモ・サピエンス」(ホモー・サピエーンス/原義:賢い人)
2.Ars longa, vita brevis.「芸術は長く,人生は短い」
3.Mens sana in corpore sano.「健全な精神が,健全な肉体に」
まず1はその格変化を確認する
homo, hominis, m.「人間」(第3変化・男性名詞)
sapiens, sapientis, adj.「賢い」(第3変化形容詞)
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単 数 |
複 数 |
主格 |
homo sapiens |
homines sapientes |
呼格 |
homo sapiens |
homines sapientes |
属格 |
hominis sapientis |
hominum sapientium |
与格 |
homini sapienti |
hominibus sapientibus |
対格 |
hominem sapientem |
homines sapientes |
奪格 |
homine sapienti |
hominibus sapientibus |
「人間」が子音幹名詞なので,同じく第3変化でも,単数・奪格と複数・属格で,語尾が相違する
2に関しては,本来は前半も後半も動詞estが省略された「芸術(学芸)は長い」,「人生は短い」であるが,これを「長い(習得に長い時間を要する)学芸」,「短い人生」と考えて,名詞と形容詞組み合わせで,格変化の確認をするが,これは今回の「練習」に出題する.
3は昔の小中学校の運動会での校長先生の決まり文句「健全な精神は健全な肉体に宿る」に合わせて「健全な」と訳した第1・第2変化形容詞
san-us, -a, -um「健康な,正気の」(英語のsaneとその反対語insaneの語源)
と,第3変化・女性名詞
mens, mentis, f.「精神,心」(英語のmentalの語源)
および第3変化・中性名詞
corpus, corporis, n.「体,身体」(英語のcorpusやcorporalの語源)
からなる格言的表現で,元来はユウェナーリスという諷刺詩人の作品の中にでてくる句をもとにしているが,ここではあくまでも,格変化の確認に利用することにする
「健全な精神」
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単 数 |
複 数 |
主格 |
mens sana |
mentes sanae |
呼格 |
mens sana |
mentes sanae |
属格 |
mentis sanae |
mentium sanarum |
与格 |
menti sanae |
mentibus sanis |
対格 |
mentem sanam |
mentes sanas |
奪格 |
mente sana |
mentibus sanis |
「精神」は単数・属格の-isの前に子音が二つ以上あるので,子音幹だが混合i幹の変化になる
「健全な身体」
|
単 数 |
複 数 |
主格 |
corpus sanum |
corpora sana |
呼格 |
corpus sanum |
corpora sana |
属格 |
corporis sani |
corporum sanorum |
与格 |
corpori sano |
corporibus sanis |
対格 |
corpus sanum |
corpora sana |
奪格 |
corpore sano |
corporibus sanis |
「中性の特徴」に注意
さて,前回の第3変化名詞に続き,今回は第3変化形容詞に関してほぼ説明した.前々回に直説法・能動相・完了を学び,第4変化名詞に関しても簡単に説明してあるので,これで「マニフィカト」の第2文に関しては,ほとんどのことはわかることになるので,次回はそこから始める.
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※前回の「練習」解答と今回の「練習」
次の活用表を完成させなさい(時制は完了)
1.第2活用動詞「教える」(直説法・能動相・完了) doceo,
docere, docui, doctum
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単 数 |
複 数 |
1人称 |
docui |
docuimus |
2人称 |
docuisti |
docuistis |
3人称 |
docuit |
docuerunt |
2.第1活用動詞「戦う」(直説法・能動相・完了) bello, bellare, bellavi, bellatum
|
単 数 |
複 数 |
1人称 |
bellavi |
bellavimus |
2人称 |
bellavisti |
bellavistis |
3人称 |
bellavit |
bellaverunt |
3.第3活用第1形動詞「遊ぶ」(直説法・能動相・完了) ludo,
ludere, lusi, lusum
|
単 数 |
複 数 |
1人称 |
lusi |
lusimus |
2人称 |
lusisti |
lusistis |
3人称 |
lusit |
luserunt |
4.第4活用動詞「開く」(直説法・能動相・完了) aperio, aperire, aperui, apertum
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単 数 |
複 数 |
1人称 |
aperui |
aperuimus |
2人称 |
aperuisti |
aperuistis |
3人称 |
aperuit |
aperuerunt |
5.第3活用第2形動詞「作る」(直説法・能動相・完了) facio, facere, feci, factum
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単 数 |
複 数 |
1人称 |
feci |
fecimus |
2人称 |
fecisti |
fecistis |
3人称 |
fecit |
fecerunt |
第8講「練習」
「長い芸術」と「「短い人生」をそれぞれ格変化させなさい.
「長い芸術」(ars, artisは混合i幹変化をし,複数・属格はartiumなので間違えないように)
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単 数 |
複 数 |
主格 |
ars longa |
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呼格 |
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属格 |
artis longae |
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与格 |
|
|
対格 |
|
|
奪格 |
|
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「短い人生」
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単 数 |
複 数 |
主格 |
vita brevis |
|
呼格 |
|
|
属格 |
vitae brevis |
|
与格 |
|
|
対格 |
|
|
奪格 |
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