ラテン語入門(第5講)

1.「我思う,故に我あり」
2.動詞の活用(不規則動詞「〜がある」,「〜である」)
3.動詞の活用(直説法・能動相・完了)
4.ラテン語の時制
5.前回「練習」の解答と今回の「練習」

※1.「我思う,故に我あり」

 17世紀フランスの哲学者ルネ・デカルトの言葉として有名な「我思う,故に我あり」はラテン語では次のように言う.

 Cogito, ergo sum.(ーギトー,ルゴー・ム)

 第1語「考える」は

cogito, cogitare, cogitavi, cogitatum

が基本形なので,「愛する」と同じ第1活用動詞である.したがって,直説法・能動相・現在の活用は次のようになる.

(単数)
1人称:cogitoーギトー)
2人称:cogitas(ーギタース)
3人称:cogitat(ーギタト)

(複数)
1人称:cogitamus(コーギームス)
2人称:cogitatis(コーギーティス)
3人称:cogitant(ーギタント)

 単数   複数
1人称 cogito cogitamus
2人称 cogitas cogitatis
3人称 cogitat cogitant

 第2語は接続詞「それゆえに」で,この品詞はさすがのラテン語でも不変化である.

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2.動詞の活用(不規則動詞「〜がある」,「〜である」)

 問題は第3語で,これは英語のbe動詞にあたり,この形はI amにあたる.一応,活用を見てみる(直説法・能動相・現在).ラテン語では例外的不規則動詞です.

(単数)                        
1人称:sum(ム)(I am)              
2人称:es(ス)(you are)             
3人称:est(スト)(he, she, or it is)        

(複数)
1人称:sumus(ムス)(we are)
2人称:estis(スティス)(you are)
3人称:sunt(ント)(they are)

単数 複数
1人称 sum sumus
2人称 es estis
3人称 est sunt

もし,「私は考える,ゆえに私はいる」を人称変化させると次のようになるはずである.

 Cogito, ergo sum.(私は考える,ゆえに私はいる)
 Cogitas, ergo es.(あなたは考える,ゆえにあなたはいる)
 Cogitat, ergo est.(彼または彼女は考える,ゆえに彼または彼女はいる)
 Cogitamus, ergo sumus.(私たちは考える,ゆえに私たちはいる)
 Cogitatis, ergo estis.(あなた方は考える,ゆえに私たちはいる)
 Cogitant, ergo sunt.(彼らは考える,ゆえに彼らはいる)

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3.動詞の活用(直説法・能動相・完了)

 さて,ここで,この授業で最初に扱うことにしている「マニフィカト」の歌詞を思い出す.

第1行目は,

 Magnificat anima mea Dominum:

だった.前回までに学んだ知識で,この文はすべて説明できる.

「私の魂は主をあがめる」

 ラテン語では語順はかなり自由なので,「あがめる」(1),「私の魂は」(2),「主を」(3)の順番は1・2・3でも,1・3・2でも,2・1・3でも.2・3・1でも,3・1・2でも,3・1・2でも意味はほぼ同じと考えて良い.2の「私の魂は」も「私の」と「魂は」に分解できますが,この二語はどちらが前でも後ろでも構わない.

第2行目は

 et exultavit spiritus meus in Deo salutari meo.

だが,これは今までの知識でわかる部分とそうでない部分がある.

 この第2行を理解するためには「完了」という時制と,名詞の第4変化,名詞と形容詞の第3変化を学ばなければならない.

 最初のetは英語のandだと考えれば良い.語と語,文と文をつなぎます.ここでは前の文と第2文をつなぐ「そして」です.

 問題は第2語のexultavitで,これは動詞で,基本形は

exulto, exultare, exultavi, exultatum

ですから,「愛する」と同じ第1活用動詞です.したがって,直説法・能動相・現在の活用は次のようになる.(綴りはexsultoと-s-が入ることもあり,この形で引かなければいけない辞書もある)

(単数)                      
1人称:exulto(エクルトー)          
2人称:exultas(エクルタース)       
3人称:exultat(エクルタト)          

(複数)
1人称:exultamus(エクスルームス)
2人称:exultatis(エクスルーティス)
3人称:exultant(エクルタント)

単数 複数
1人称 exulto exultamus
2人称 exultas exultatis
3人称 exultat exultant


 ここにexultavitという形を見いだすことはできない.この「飛び跳ねる,喜ぶ」(「欣喜雀躍」のイメージか)という動詞の基本形の3番目の形に注目しましょう.

 この形は直説法・能動相・完了・1人称・単数という形で,基本形の第1番目が「現在」形だったのに,こちらは「完了」形で,この時制では次のように活用します.

(単数)                        
1人称:exultavi(エクスルーウィー)      
2人称:exultavisti(エクスルターウィスティー)
3人称:exultavit(エクスルーウイト)     

(複数)
1人称:exultavimus(エクスルーウィムス)
2人称:exultavistis(エクスルターウィスティス)
3人称:exultaverunt(エクスルーウェールント)

  単数    複数
1人称 exultavi exultavimus
2人称 exultavisti exultavistis
3人称 exultavit exultaverunt

この授業で第1活用の基本動詞とした「愛する」も見てみる.

(単数)                        
1人称:amavi(アーウィー)           
2人称:amavisti(アマーウィスティー)      
3人称:amavit(アーウイト)           

(複数)
1人称:amavimus(アーウィムス)
2人称:amavistis(アマーウィスティス)
3人称:amaverunt(アマーウェールント)

 単数   複数
1人称 amavi amavimus
2人称 amavisti amavistis
3人称 amavit amaverunt

 1人称・単数の-iを乗った残りが語幹(完了語幹で,それぞれの活用形から語幹をのぞいた残りが直説法・能動相の完了の活用語尾であるが,この二つの動詞はどちらも第1活用なので,まったく同じになるのは当然だが,直説法・能動相・現在では5つのタイプの活用があったのに対し,完了では,すべてのタイプの活用で同じ語尾になることを次の実例から学ぶ.

第3活用第2形動詞「捕らえる

capio, capere, cepi, captum

である.3番目が完了を作る基本形なので,

(単数)
1人称:cepiーピー)
2人称:cepisti(ケースティー)
3人称:cepit(ーピト)

(複数)
1人称:cepimus(ーピムス)
2人称:cepistis(ケースティス)
3人称:ceperunt(ケーールント)

単数 複数
1人称 cepi cepimus
2人称 cepisti cepistis
3人称 cepit ceperunt

 すなわち,完了では「第何活用」という区別は無意味になる.

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4.ラテン語の時制

 ラテン語の時制には次の6つがある.

 未完了系
 現在(〜する,〜している)
 未完了過去(〜していた)
 未来(〜するだろう)

 完了系

 完了(〜した)
 過去完了(すでに〜してしまっていた)
 未来完了(すでに〜してしまっているだろう)

    未完了系      完了系
現在(present) 完了(perfect)
未完了過去(imperfect) 過去完了(past perfect)
未来(future) 未来完了(future perfect)
 かっこ内は英語名称


 「完了」は元来「現在完了」(〜した結果,今・・だ)で,この意味もラテン語では残っているが,多くの場合単純な過去をあらわすので,「完了」という名称と矛盾するようですが,とりあえずラテン語の「完了」は「〜した」(単純な過去)と覚えておくことにする(実際には現在完了の意味がかなり重要だが,当面忘れておく).

 ラテン語の動詞活用に関しては,「未完了系」の場合は四基本形のうちの1番目と2番目から,「完了系」の場合は3番目から類推できます.それに関しては次回以降学ぶ.

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5.前回「練習」の解答と今回の「練習」

前回「練習」の解答

1.第2変化・男性名詞「狼」lupus, lupiを変化させなさい.

  単数     複数  
主格 lupus lupi
呼格 lupe lupi
属格 lupi luporum
与格 lupo lupis
対格 lupum lupos
奪格 lupo lupis

2.第2変化・男性名詞「庭」hortus, hortiを変化させなさい.

  単数     複数  
主格 hortus horti
呼格 horte horti
属格 horti hortorum
与格 horto hortis
対格 hortum hortos
奪格 horto hortis

3.第3変化・男性名詞「場所」locus, lociを変化させなさい

  単数     複数  
主格 locus loci (loca)
呼格 loce loci (loca)
属格 loci locorum
与格 loco locis
対格 locum locos (loca)
奪格 loco locis

※「場所」は複数では中性形になることが多いが,ここではそれは考えず,普通の第2変化・男性型の変化と考えることにする.(「解答」では複数に現れる中性形はカッコ内に示した)

「練習」:

1.第2変化・男性名詞「友人」amicus, amiciを変化させなさい.

 単数   複数  
主格 amicus
呼格
属格 amici
与格
対格
奪格

2.第2変化・中性名詞「言葉」verbum, verbiを変化させなさい・

単 数 複 数
主格 verbum
呼格
属格 verbi
与格
対格
奪格

3.次の日本語をラテン語に訳しなさい.

「良い主人の言葉は良い」

「良い詩人の言葉は良い」

「良い詩人は良いバラを愛する」

4.第3活用第1形動詞「支配する」rego, regere, rexi, rectum を直説法・能動相・完了に活用させなさい.


単 数 複 数
1人称 rexi
2人称
3人称

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