ラテン語入門(第2講)

 前回からの続きで「マニフィカト」の第1行をヒントにしてラテン語の文法を学ぶが,その前にアクセントについて一応整理する.

1.アクセントについて/2.動詞の4基本形と活用/3.名詞の格変化

※1.アクセントについて

1音節の語は,もちろんその音節にアクセントがある.

 et(エト)「そして」

など.

2音節の語は,第一音節(前の方)にアクセントがある.

 a
mo(アモー)「私は愛する」

など.

 問題は3音節以上の語の場合 .その場合注目点は後ろから2番目の音節で,それが「短い」場合と「長い」場合で異なる.

 1.「短い」場合:後ろから3音節目にアクセントが来る.

 magnificat(マグニフィカト)「彼(彼女)はあがめる」

など.

 2.「長い」場合:音節(=母音)が「長い」場合に2通りあるが,この場合は後ろから2音節目にアクセントが来る.

 (1) 本来「長い」:もともと長母音である場合.

 magnificamus(マグニフィカームス)「私たちはあがめる」

など.
 (2) 位置的に「長い」:元来は短母音であるが,その母音と次の母音との間に子音が2つ以上ある場合は,次の母音を発音するまでに時間がかかると考え,「位置の上から」長母音として扱う.

 fenestra(フェネストラ)「窓」

など

 ラテン語は文字を書いた瞬間にアクセントが決まる.例外はごく少数しかない.

 長母音として考えるものに二重母音(diphthong)(「複母音」とも言う)がる.これは2文字の母音からなっているが一音と考えるものである.ラテン語の二重母音は通常次の6つとされる.

 ae / au / ei / eu / oe / ui

 たとえば,Caesar(カエサル)という語はaeという二重母音とaという単母音からなる二音節の語ということになるが,その際,アクセントはaeにあることになる.その場合アエのアの方を強く読む感じで良いだろう.実際には後ろの音が弱くなって「アィ」という風に発音されたかも知れないがそれは考えないことにする.

 またAugustus(アウグストゥス)は,au,u,uの3つの母音からなる3音節語ということになる,この場合後ろから2番目のuの次に子音が二つあるので位置的に長いことになりアクセントはそこにあるので,audio「私は聞く」(アウディオー)はau,i,oという3つの母音(母音が連続していてもioは二重母音ではなく,それぞれ1つずつの母音)がある3音節語で,後ろから2番目のiが短いので,アクセントはauにある.この場合,aとuが二重母音ではなくそれぞれ1つずつの母音であればuが後ろから3番目の母音となり,アクセントはそこにあって,発音すると「アディオー」となるが,実際にはそうはならずアクセントは「アウ」という二重母音にある.私たちとしては前の「ア」を強く(本当は高く)発音するつもりでいれば良いだろう.

 二重母音については最初はあまりこだわらなくても良いだろう.

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※2.動詞の4基本形と活用

 次に動詞についてまとめます.動詞の説明は前回のページに書いた5つの「基本動詞」(これはどの教科書も同じというわけではありません.あくまでもこの授業でのことです)によって説明します.では「愛する」から.


 この動詞を覚える際に,

amo, amare, amavi, amatum

という4つの基本形を覚えるようにしましょう.英語の不規則動詞を覚えるときに,原形,過去形,過去分詞形の3つを覚える要領です.4基本形は

法・相・時制・人称・数など 意味
amo 直説法・能動相・現在・1人称・単数 私は愛する
amare 不定法・能動相・現在 愛すること
amavi 直説法・能動相・完了・1人称・単数 私は愛した
amatum 目的分詞」(この用語は便宜的) 愛するために

だが,これらを覚える意味は後述する.今はすべて覚えなくて良いが,2つ目まで(「不定法」まで)は覚えた方が良い.なぜなら2番目の「不定法」がその動詞の活用パターンがどのタイプか(第何活用か)を示すから.

不定法・能動相・現在が

-are(アーレ)なのが「第1活用」
-ere(エーレ)なのが「第2活用」,
-ere(エレ)なのが「第3活用」
-ire(イーレ)なのが「第4活用」

である.

 この講座では第3活用をさらに二つのタイプに分ける.「私は〜する」が

-o(オー)で終わるものを,第3活用第1形
-io(イオー)で終わるものを第3活用第2形

とする.後でわかるが,第1形を標準として考えると,第2形は第3活用第1形と第4活用の中間的な形になる.

 では,まずそれぞれのタイプの「直説法・能動相・現在」の活用を基本動詞でやってみる.第1活用については第1講で示したので,それ以外のものを示す.

★第2活用「忠告する」

1人称・単数:moneoネオー)「私は忠告する」
2人称・単数:mones(ネース)「あなたは忠告する」
3人称・単数:monet(ネト)「彼(彼女)は忠告する」
1人称・複数:monemus(モームス)「私たちは忠告する」
2人称・複数:monetis(モーティス)「あなたがたは忠告する」
3人称・複数:monent(ネント)「彼らは忠告する」

これを,表にすると

単数 複数
1人称 moneo monemus
2人称 mones monetis
3人称 monet monent

★第3活用第1形「支配する」

1人称・単数:rego(ゴー)「私は支配する」
2人称・単数:regis(ギス)「あなたは支配する」
3人称・単数:regit(ギト)「彼(彼女)は支配する」
1人称・複数:regimus(ギムス)「私たちは支配する」
2人称・複数:regitis(ギティス)「あなたがたは支配する」
3人称・複数:regunt(グント)「彼らは支配する」

これを表にすると,

単数 複数
1人称 rego regimus
2人称 regis regitis
3人称 regit regunt


★第3活用第2形「捕らえる」

1人称・単数:capio(ピオー)「私は捕らえる」
2人称・単数:capis(ピス)「あなたは捕らえる」
3人称・単数:capit(ピト)「彼(彼女)は捕らえる」
1人称・複数:capimus(ピムス)「私たちは捕らえる」
2人称・複数:capitis(ピティス)「あなた方は捕らえる」
3人称・複数:capiunt(ピウント)「彼らは捕らえる」

これを表にすると,

単数 複数
1人称 capio capimus
2人称 capis capitis
3人称 capit capiunt

★第4活用「聞く」

1人称・単数audioアウディオー)「私は聞く」
(auアウは二重母音なので,長母音一つと考え,1音節に数える.実践的には「ア」を強く発音する)
2人称・単数:audis(アウディース)「あなたは聞く」
3人称・単数:audit(アウディト)「彼(彼女)は聞く」
1人称・複数:audimus(アウディームス)「私たちは聞く」
2人称・複数:auditis(アウディーティス)「あなたがたは聞く」
3人称・複数:audiunt(アウディウント)「彼らは聞く」

これを表にすると,
単数 複数
1人称 audio audimus
2人称 audis auditis
3人称 audit audiunt

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※3.名詞の格変化

さて,それでようやく「マニフィカト」の第1文にもどる.

Magnificat anima mea Dominum.

 2番目の語は名詞です.幸いなことにこれも第1変化という最も基本的なタイプの変化です.名詞は「格変化」をするが,「格」とは何だろうか.それぞれの「格」を説明する.ラテン語には6つの格がある.
英語名称 省略記号 意味 機能
主格 nominative nom. 〜が 主語または主格補語
呼格 vocative voc. 〜よ 呼びかけ
属格 genitive gen. 〜の 所有/所属
与格 dative dat. 〜に 間接目的語
対格 accusative acc. 〜を 直接目的語
奪格 ablative abl. 〜から
〜によって
分離
手段

(補足)
 主格:「AはBだ」という時のAが主語,Bが主格補語
 呼格:第2変化・男性名詞以外は,ほとんどの場合主格と同じ
 属格:英文法の「所有格」より守備範囲が広いが,取りあえず所有格みたいなものと考える.
 与格:「〜に・・を与える」という時の「〜に」と当分は考えておく.
 対格:「〜に・・を与える」という時の「・・を」と一応考えておく.
 奪格は古代ギリシア語でも廃れてしまったラテン語に特徴的な「格」なので重要

 ラテン語の名詞はこの6つの格が,単数形と複数形の双方にあり,一つの名詞で12の変化形があることになる.単数,複数を「」(すう)と称します.このほかに名詞には,男性名詞,女性名詞,中性名詞があり,これを「」と称するが,自然性(sex)ではなく,文法的「性」(gender)である.

 ラテン語の名詞と形容詞では性・数・格が常に問題となる.

 ちなみにanima「魂」は第1変化・女性名詞ですが,まず第1変化はどのように変化するのかを見ましょう.

単数・主格:anima(ニマ)魂が
単数・呼格:anima(ニマ)魂よ
単数・属格:animae(ニマエ)魂の
単数・与格:animae(ニマエ)魂に
単数・対格:animam(ニマム)魂を
単数・奪格:animaニマー)魂によって(魂から)
複数・主格:animae(ニマエ)魂たちが(「たち」はおかしい,というのは目をつぶる)
複数・呼格:animae(ニマエ)魂たちよ
複数・属格:animarum(アニールム)魂たちの
複数・与格:animis(ニミース)魂たちに
複数・対格:animas(ニマース)魂たちを
複数・奪格:animis(ニミース)魂たちによって(魂たちから)

これを表にすると,
単数 複数
主格 anima animae
呼格 anima animae
属格 animae animarum
与格 animae animis
対格 animam animas
奪格 anima animis



 第1変化名詞を覚える際に(これは名詞全般に言えるだが),辞書登録形である単数・主格の他に,単数・属格をセットにして覚えるのが良い.
 その名詞が「第?変化」であるかは,単数・属格が目安になります.単数・属格が-aeで終わっていれば,間違いなく第1変化名詞であり,この-aeを取った残りの形が,その名詞の変化語幹になります.ですから,今後名詞を覚えるときには必ず単数・属格をセットにして覚えることとする.「魂」はanima, animaeと覚える.

 では同じく第1変化女性名詞rosa, rosae「バラ」の変化を見てみます.

単数・主格:rosa(サ)
単数・呼格:rosa(サ)
単数・属格:rosae(サエ)
単数・与格:rosae(サエ)
単数・対格:rosam(サム)
単数・奪格:rosaサー)
複数・主格:rosae(サエ)
複数・属格:rosarum(ロールム)
複数・与格:rosis(スィース)
複数・対格:rosas(サース)
複数・奪格:rosis(スィース)

これを表にすると,
単数 複数
主格 rosa rosae
呼格 rosa rosae
属格 rosae rosarum
与格 rosae rosis
対格 rosam rosas
奪格 rosa rosis

 ここでも単数・属格のrosaeから-aeを取ったros-が変化語幹になっていることがわかる.第1変化名詞は女性名詞がほとんどであるが,まれに男性名詞もある.その大部分は固有名詞(Seneca, Senecae「セネカ」(有名な哲学者)など)と職業・身分などをあらわす名詞(poeta, poetaeポエータ,ポエータエ「詩人」など)です.これに関しては「形容詞」を学ぶ際にもう一度確認します.

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第1講の「練習」解答

1.

単数 複数
1人称 canto cantamus
2人称 cantas cantatis
3人称 cantat cantant


2.

単数 複数
1人称 oro oramus
2人称 oras oratis
3人称 orat orant


第2講「練習」:

1.動詞「ほめる」laudo, laudare, laudavi, laudatum を直説法・能動相・現在で活用させなさい.

単数 複数
1人称 laudo
2人称
3人称

2.第1変化・女性名詞「生命/人生/生活」vita, vitae を格変化させなさい

単数 複数
主格 vita
呼格
属格 vitae
与格
対格
奪格

3.第1変化・女性名詞「少女」puella, puellae を格変化させなさい

単数 複数
主格 puella
呼格
属格 puellae
与格
対格
奪格


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